恋は3S
ほぼ初対面の人間相手に見た目でこんな判断を下すのは失礼だと思いますがキャンディスはそういう系統の店で四つん這いになったそういう性癖の異性相手をヒールで踏みつけ鞭を振るい蝋を垂らしてニヤついていそうな危ない人という印象でした。

それが印象から確証に変わったのは数分後の事。

まず試合開始早々にキャンディスが出した得物が、普通の体格の女性どころかあのおっさんでも振り回していたら違和感のありそうな程人が持つにはアンバランスすぎる大きさの石の斧で、キャンディスはそれを難なく振り回しジャック君を圧倒。

至近距離では勝ち目が無いと判断したジャック君が一旦距離を取って放ったアースビーンズをこれまたアンバランス過ぎる岩の爪でサクッと切り裂き、これならどうかと発動した何気にギド戦以来のアースウェイブも眼帯の下に埋め込まれたマジックストーン『空間転移』で互いの位置を入れ替えられ自身の攻撃を直に食らう形で宙を飛び、落ちました。

「クスクス…おバカな子。」

キャンディスが眼帯を戻しながら妖しく笑い、わざわざジャック君が起き上がるのを待って次は自分の番かと言わんばかりにネイチャーを発動。

ネイチャーARMボールダーファングは砂地から岩を次々と押し上げ、ジャック君はそれをどうにか避け続けるも押し上げられた岩はそのままジャック君の頭上を囲み、避ける隙も与えず彼を叩き潰しました。

「あーああ……ゾクゾクするぅ……気持ちいいわぁ……
愛しのファントム……見ていてくれてるかしら……」


50


「さぁ、ポズン。勝利の宣言を行って頂戴。」

メル側に圧倒的敗北を叩き込んだとお思いのキャンディスはポズンに指差し勝利を要求。要求通り勝利宣言を入れようとした所で待ったが掛かる、勿論メル側ギンタ君スノウ姫ついでに私から。

「いや………!まだだぞ!!」

「まだジャックは終わってないよお!!」

「そーだそーだ。」

特に気の効いた言葉も浮かばずに同意を入れただけに終わると「何?」と不機嫌そうにキャンディスが鋭い眼光で私達3人に視線を走らせます。怖っ。
そして即座に岩の墓場に目を戻すとアースビーンズが這い出しつつあって一つだけ実を露にしていた豆に亀裂が入り中からジャック君が現れました。
おめでとうございます、元気な男の子ですよ。

豆はアースビーンズを応用したビーンズシールドでこんな時の為に考えていたのだとスコップを構え直してジャック君が説明。それに対して「バカの割りにはいいアイディア」と他人にバッチリ聞こえる程の声量でアルヴィス君がボソッと呟くと案の定ジャック君が「そこ!!!聞こえてるよ!!!」と叫んで指を差します。
その間キャンディスは攻撃もせずに以外とやるジャック君を不気味に眺めていました。

「思ったより、やるじゃないさ。」

また誉められましたね、しかも次は女性ですよやりましたねジャック君。お祝いに心の中で親指を立てときます。

ジャック君相手にどう攻めるつもりかわかりませんが新たにキャンディスは腕のARMを外して放り投ました。
『恵みの秤』と呼ばれ煙を上げて出てきたARMは4枚の羽を生やした蛇が柄に巻き付いた時計の様な物
あ、時計でなく秤か。

「なんや?アレ。」

「……わからん。」

「わかりました。」

全員に「え?マジで?」と言わんばかりの顔で一斉に振り向かれます。
思わず流れで言ってしまっただけなんですけどね。

「ウソつけ、ミツキが知ってる訳ねェだろ。」

そしてコンマ1秒くらいの差でアルヴィス君より先に我に返ったギンタ君に正論を吐かれました。そうですよね、知ってる訳無いんですよ。私達「二人は異世界人」ですもんね。

「失敬な、きっと恵みの秤と言う位ですから相手の幸運度によって威力が変わる攻撃が出されるんですよ。そう、そうに決まってます。」

「それ予想じゃねぇか、何がわかりましたで失敬だよ。」

言ってしまったからには後には引けないのだから予想だろうがでまかせだろうが言わなければならない時があるのですよギンタ君。
…今回別に後に引けなくはありませんでしたけどね。
取り合えずジャック君が空間転移を忘れて攻撃に入ったお陰で話題が反れ、この話は無かった事になりました、一旦は。

あーあジャック君やっちまいましたね、といつも通り他人事に傍観しているとARMのお陰で「見てから余裕でした」レベルで避けられる筈のアースウェイブが何故かキャンディスに直撃。

「アラっ…よ、よけない?」

「ふふ…快感。」

そしてこの衝撃発言。
んな訳あるかい。
だってあの人サディストですよ、ドSですよ、目盛がSとMのS側に吹っ切れてる人ですよ?
恵の秤も目盛が2進んで10分だったり100gの辺りを差してますけど、でもドSと言ったらガラスのハートですよね?そんな気持ちいいとか聞き間違いですよね?

敵相手にどうでもいいことをひたすら考察している間にキャンディスは自身をARMでいたぶり始めました。
唖然とするジャック君を目の前に秤の目がさらに進みます。

「気持ちいいよ……この悦び……子供にはきっとわからないね……」

「そんなのわからないっスよーっ!!」

私もわかりません。
キャンディスの唐突な変化が。
まあ…他人の、しかも敵の性癖がどうかなんてどうだっていいんですけど。

…今更冷静になって言うもんじゃないですね。

「ジャック、チャンスだ!!攻めろ!!」

ギンタ君の声に答えるようジャック君が攻撃をガンガン仕掛けると先程まで全部いいようにされていたのが嘘のように攻撃が全てキャンディスに吸われていきます。
死んで精神攻撃でも仕掛けるつもりですかあの女は。

「おかしい…様子が変だ。」

ギンタ君達がいいぞやれやれやっちまえと言わんばかりに試合観戦で大フィーバーしてる中、一連の流れにアルヴィス君が神妙な顔で呟きます。
キャンディスの様子は5thバトル前からおかしかったと思いますがまあそれは置いておきましょう。

「ジャックの攻撃を受ける。自らを傷つける……その度にあの秤は時を指し示している!!」

えーと、仮にこれで一周したら何か起こるとするじゃ無いですか、で、見た限り一回の攻撃で2目盛分進むんですよね?
今の攻撃を最後としても今は50分の辺りだから…



「攻撃をやめろジャック!!!」

アルヴィス君の警告も虚しく、最後の攻撃がキャンディスに直撃すると針は再び最初の位置を指し示しました。

トゥルルルルと鳴り響く砂漠の上でボロボロのキャンディスが言葉を紡ぐ。

「この体に刻み込まれた、数多の傷は悦び……そしてこれは相手にとって地獄の苦しみの糧となる。」

ヤバイ、これヤバイ奴ですよ。
説明を脳内厨二病用語辞典で翻訳した結果所謂倍返しって奴にたどり着きましたよこれ。

焦りの中、キャンディスの帽子にぶら下がっていたARMが発動しました。

「出でよ…『ゴーゴン』」

『ゴーゴン』は髪が蛇になっているアレでした。ほら、目が合うと石にされるって神話のアレです。

見てくれは人型で巨人かよと言いたいほどには巨大なんですが姿の見える範囲が顔だけで中途半端に砂に顎が埋まっているせいで溺れてあっぷあっぷとやってる人にしか見えませんでした、強力そうなARMなのに凄く間抜け。

アホみたいな格好の『ゴーゴン』が奇声を上げるとジャック君に異変が起こり、足下から石化が始まる。

「なんだこりゃあーっ!!?」と叫び声をジャック君が上げ、ガーディアンを消したキャンディスがゴーゴンの瞳を見た者は、体を石にされると説明を入れました。神話そのまんまですね。

ついでに彼女はサディストでマゾヒストだそうです。
全国放送でそんな物暴露してメルヘヴン中の青少年達の性癖が歪んだらどうするんですか。

「ゴーゴンを出す時はいつも相手の好きに嬲られるの……そうして悦んで悦んで…相手の苦しむ姿を楽しむサディストの一面に変わる。」

ようするに恵みの秤はダメージの蓄積に比例して魔力を上げるARMで、あのゴーゴンを出す為には相当な魔力が必要。
一撃必殺みたいなものですし当然ですか。

石化を戻すにしてもアルヴィス君が言うにはあのARMはダークネスでは無いし能力が強すぎるからアリスでも元に戻すことが難しいだろうとの事。
結局ARM本体を破壊しない事にはジャック君は永遠に石のまま。

ギンタ君がジャック君にギブアップしろと叫びますが勿論ドSキャンディスが脚下。

そうしている間にもジャック君は石になる恐怖と戦い、それを見てキャンディスは悦びギンタ君は名前を叫ぶのでした。

こっそりスナイパーでARMだけ狙撃出来れば一番いいのですが私が今出来るのは相手を追尾する事だけで特定の部位の破壊は技術的に不可能。
出来たとしても試合妨害で失格、ジャック君のプライドもズタズタに。

頼みの綱はカルデアで貰ったARMだけ、さてどうなるでしょう。

石化が上半身半分に差し掛かった所で、ジャック君が動きました。左手でどうにかズボンからARMを取りだし、石化されていないと安心します。

「この期に及んでまだそんな表情を見せるなんて……かわいくない子ねジャック。」

語尾にハートでも付けてそうなサドい話声でキャンディスが見下して、そんな事お構いなしにジャック君はARMに魔力を込め始めました。

「もうダメかなって思ったっスよ。
でも…声が聞こえた。
まだお別れしたくない、友達の声が聞こえたんだ!!!」

ARMは高く投げられました。

ガーディアンARM『メヒィトス』

見てくれは完全にハエトリグサなそのARM。
それはキャンディスの真後ろに現れ彼女の上半身だけを出す形で挟み込みます。

ハエトリグサって飛び込んできた虫を挟んで消化液で溶かして摂食するんですよね確か。

いくらドMでも挟まれながらの消化プレイなんて初めてなんじゃないでしょうか、貴重な体験ですね。
本人も叫び声を上げる程喜んでますし良いことづくめですね、キャンディスはジャック君に感謝しないと。

冗談は置いておいてジャック君は石化しきるギリギリの所で手のひらサイズのメヒィトスでキャンディスのARMを捉えて破壊しました。
メヒィトスが消え、キャンディスが地面に背中から叩きつけられたと同時に石化も解除、ジャック君も体を支えきれずに倒れ、試合の結果はドローで終わりました。

メンバー全員が駆け付け、スノウ姫が身体を起こし、ギンタ君が結果を伝えるとジャック君は「もう少しだった」と、悔しがります。

「善戦だったよ。オレが認める。次に期待しよう。」

あのアルヴィス君が誉めてくれましたよ。何度めかわかりませんがやりましたねジャック君。

相手が油断していたとは言えナイト相手にあの状況で立場を逆転させるなんてそれはとても凄いことです、今夜はご馳走ですね。

さあ次はギンタ君です。
相手はアッシュ。

top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -