遅れて来た
氷柱が引き抜かれ、肉人形と化したアクアが血液を散乱させゴトリと落ちた。

「てめぇーっ!!!」

「ひゃははははははーっ!!!やっぱり女を殺すのは楽しいぜーっ!!!」

怒りを露にしたギンタ君がギロム相手に一直線に突っ込む。慌ててポズンによる試合開始の合図がされた。


40


「…よくも……よくも!よくもカワイイ弟にあんな事してくれたねェーっ!!ギンタァァ!!!」

さて、ラプンツェルがヒステリーを起こしているのを聞いてわかる通り、ギンタ君がギロムに勝利を納めました。

冷静さを欠いていたギンタ君がバッボに説教され、その後ファントムに押し付けら…では無く、貰った5つ目のマジックストーンを使い、「クッションゼリー」を発動しピンチを脱出。どんな攻撃も吸収するチート性能のオレンジゼリーを創造されるだなんてあのファントムも想定外だったでしょうね、最後はギロムが命乞い→遥か彼方に飛ばされるのコンボで終了。デジャヴ

以上、ギンタ君VSギロムの簡単なレポでした。今回はボケを挟まずに真面目に試合を観戦していたのでこんなもので。

次は私ですね。なんかラプンツェルが「六戦目もてめェが出て来いギンタ!!ギロムの仇を討ってやるよォーっ!!」とキーキー叫んでますがルール上、同じ人間が試合に出るには相手側の人数が多い場合だけで…

あれ?おかしいですね計算が合いません。
そもそも4thバトルがそんなルールで始まった訳で、試合を進めそれに従い体力に余裕のある人間が最後のチェス、即ちラプンツェルを相手にする計画だった筈です。

そう言えばチェスの兵隊が出てきた時、あと二人足りないと考えていたような気がします。
ラプンツェルのインパクトに押されてすっかり忘れていました。

そんな考えに答えるようにチェス側の2、3m上空に渦が巻き始めます。ギンタ君とジャック君がなんだ!?と叫んでました。お約束。

その渦の中心から出てきた誰かは氷上に片膝をくよう着地。顔を上げ、辺りを見渡し口を開いた。

「……あれ?動いてる人が全然いないですね?状況はどうなってるんですラプンツェル様?」

「どうもこうもないよオォォ!!!役立たず共が連敗した挙句私のカワイイギロムがあのクソチビギンタにぶっ飛ばされたんだよォォ!!!理解したかいこの豚!!!」

「はいはーい理解しました。状況確認した感じ、残ってるのはラプンツェル様だけっぽいですね?なら私出ますねー?
最後がビショップクラスじゃ箔が着きませんし。そっちは誰が残っているんですかー?」





「と、言うわけなので出ます」

残り物なので強制的に出番は私に、一歩前に進むとギンタ君に名前を呼ばれました。頭を斜めに傾け返事をします。

「わかってますよ。約束、守ってみますね。」





「初めまして、私の名前はレプロット。自他共に認めるぶりっ子キャラを演じていて、クラスはビショップ。ちょっとだけ他のビショップ級よりも強いよ?ポズン、お願いねー?」

間の抜けるレプロットの言葉にポズンは試合開始の合図と言う形で返答、いつも通り私はそれと同時にウォーハンマーを発動した。

「こっちはこれで行ーき、まーす、よっと。ガーディアンARM、『マッド・ティーパーティー』!」

発動されたガーディアンARM、それはげっ歯類特有の歯に鼠の尻尾、ウサギの耳の付いた派手な帽子を被りアンバランスな人型をしていた。両手にはティーポッドとティーカップ、目測ではランプの魔神と同レベルの大きさ。
魔力はそれなりに込められているように感じました。

「いいんですか?そんな物いきなり出して。」

「?、あなた一人ならこれが最善の選択だと思って出してるよ?ひょっとしてお馬鹿さん?本当にあの人の肉親なの?」

「そうですか、そりゃすみません」

ねっ、と地面を蹴り、ハンマーを巨大化させ、ガーディアン相手に飛びかかる。動けないレプロットを先に潰しても構わないのですがどうせガーディアンが邪魔をしに来るのでさっさと壊してしまいましょう。

3rdバトル同様に横薙ぎに頭に叩きつけるようにスイング。シンプルですがこれが一番効率が良いんです。本当は遠距離で攻撃できそうなARMがあるのが一番なのですが。

とかなんとか考えていたらガーディアンは攻撃を後退する事であっさりと回避、浮遊感に包まれながら着地するまでの間、ガーディアンを観察すると意味深に持っていたティーポッドの中身をカップに注ぎ始めます、薄々勘づいてましたが、それを相手にぶっかけるつもりなんですよね?中身は熱湯でしょうか。

着地し、その場を素早く離れる。同時にカップの中身が広範囲にぶちまけられました。それなりに離れたつもりでしたが散乱した液体のほんの一部が私の服に少しだけ掛かり、その部分は嫌な音をたて煙を発しながら溶解しました。
この物証から導き出せる答え。

中身は強酸

冗談じゃありません。熱湯だけならまだしもこんなの喰らったら一溜まりもありません、最悪即死します。後方を確認しつつ全力ダッシュで逃げ回ります。
取り合えずレプロットを潰そうと隙を見て方向転換を図るもガーディアンももの凄い勢いで追いかけてきます、注ぎ直したのか追いかける速度に負けてティーカップの酸がボタボタと幾度もこぼれ落ちます、そのたびに地面が音をたてながら煙を上げるんです、止めて下さい。

「いいぞやっちまいなァーっ!!」

ちょっと黙って下さい気が散ります。

気が散ったせいなのか氷原フィールドという場所が災いしたのか、ついに足を滑らせ、顔面で着地、そのままスコーとスライディング。

即座に体を捻り顔を上げると酸を注ぎ直すガーディアンの姿が目の前に立ちはだかっていました。

また絶対絶命ですか、仕方が無いのでスタンガンを発動します。

前ほどではありませんが、まだまだ使いこなすには、アルヴィス君の言葉を借りれば持久力が足りません、本当は使う予定はありませんでしたが余裕も無いので。





結果的には最善の選択だったと思いますよ?あと1、2秒ほど発動が遅れていたら全身グズグズに爛れ奇声を上げる放送禁止レベルのグロテスクな「ミツキ」だったものが出来上がっていたでしょう。

かと言って今の状況の方がマシとも言えないのですけどね、血まみれになって横たわる私をレプロットは超が付くほど爽やかな笑顔で見下ろしています。

「痛い?痛そう!」

超痛いです、と余裕があるなら返答してやりたいですね。

彼女は始めからスタンガンを使うことを想定していたのでしょう、呪いをかけた後に生じた一瞬の隙を好機と捉え、足下にARMを発動。

「ディメンションARM『ラビットホール』癖のあるARMでね、特定の場所に相手を一方的に移動させる事が可能なARMなんだよ。勿論発動者自身の移動も可能だけど。」

と、説明が入っていました、確か。
そのラビットホールによってこの氷原フィールドの上空に移動させられ、落下。
ええ、勿論この世のものとは思えない悲鳴を上げましたよ。そのままこの硬ーい硬い氷上に叩き付けられました。全身にかかる負荷のせいで正確に把握は出来ませんが、骨が数本折れたと思います。内蔵もひょっとしたら破裂したかもしれません。

生きていることを考えると恐らく死なない程度の高さを考慮しての行動なのでしょうね。多分いたぶるのが好きなんでしょう。

呼吸が停止し、痛みで体をうずくまらせるとレプロットに急所をわざわざ外して何ヵ所かダガーで斬りつけられる。
同時に激痛で目頭が熱くなります、生理現象には勝てません。

遠くでギンタ君がギブアップをポズンに要求していました、そんな事この状況下では不可能だと思うのに。

「このARMは私との相性が最高に良いの、だから敗者の邪魔な死体の後処理は私が担当してるんだ。火山フィールド、覚えてるよね?普段はそこの火口に繋がってるの。」

そう説明をすると再びラビットホールを少し先に発動、真下に発動しなかったのは落ちる瞬間を楽しむ為でしょう。悪趣味。

蹴りを入れて落とすと目論んだので痛みで軋む体をどうにか無視し、ダガーを発動。
案の定蹴りを入れて来たので渾身の力で突き刺してやりました。きゃあ、と毛虫でも見付けたかのような軽い悲鳴が上がった。
最後の足掻きのつもりでしたがあまり効果が無かったようですね。

もう一発…と考えましたが今はダガーの維持すら困難なので直ぐにリングに戻りました、即座に蹴りを入れられます。血反吐が吐き出されます。

蹴り飛ばされた勢いで滑る私の体から流れる血液が氷上に弧を描いて伸びていました。

いつだか兄さんが雪原での殺し合いは美しいとか言っていたような気がします、赤と白のコントラストが素晴らしいとか。
そんな事ありませんね、不快にさせるだけです。ここは雪原では無く氷原なので根本からして間違っているのでしょうけど。

「ばいばい。」

落下する直前、最後に目にしたのは知り合いと別れるかのような軽い仕草で手を振るレプロット。
最後に耳にしたのはギンタ君達が私の名前を呼ぶ声。

すみませんね、お役に立てなくて。

それにしても火口へ「落下」とは、自分に相応しい死に方かもしれませんね。
ほら、体感温度が上昇してます。

走馬灯が流れ

そして意識が途絶えた

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