天然の
「負けねえぞ。」
全身ボロボロで立て掛けたスコップに身を預けるジャック君をコレッキオが見下ろす中、彼は一言そう言います。
「ここでオイラが死んだら、最大の親不孝じゃねーか!!見ててくれよ母ちゃん!!オイラはメルヘヴンの為に最高の親孝行をするぞーっ!!!」
何か策を思い付いたのかスコップを構え直しジャック君はコレッキオに向き直る。無意識でしょうか、全員がジャック君の行動を見物する中ギンタ君だけが名前を溢していました。
38
「その顔………気に入らない。」
さて、対するコレッキオはジャック君の態度が癪に触ったらしく勝負をつける為かもう一度蹴りの構えに入ります。
そのままジャック君はコレッキオの足にしがみつき、コレッキオは落とそうと躍起に足を振り回しますも、秘技、ロッククライミングで体中を這いずり回られる。
コレッキオはジャック君を掴もうとしても背中などに回られ上手く行かず、最終的に胸元辺りを足場に飛躍され、口に何かを飛ばされそれを飲み込みました。
「お…お前……コレッキオに何飲ませた………!?」
「おいしい…モノっスよ。」
…あー、なるほど。彼が何をしたいのか理解しました、なかなかえぐい事をしますね。メルの中ではギンタ君だけ訳がわからない様子でした。
「育て!!!アースビーンズ!!!」
ARM発動によってコレッキオの口からアースビーンズの弦が急速に生えました。喉元をおさえている辺り息ができてないのでしょうね、お気の毒に。彼はそのまま倒れ、ジャック君の勝利がコールされました。ギンタ君達が歓声を挙げる中、アルヴィス君だけが「まさに猿知恵!」と感心していて第一声がそれですか酷いですねと心の中で突っ込みを入れました、まる。
ジャック君が勝利した事により蔓が消えて息を吹き返したコレッキオは這って戻るも追い討ちをかけるようにラプンツェル相手にジャンケンで負け、有無を言わさず首を切られます。
ラプンツェルは案の定大爆笑。いい加減聞きあきました。
「あいつまた仲間を!!!もう許せね……」
「敵の事ですし少し落ち着いて下さい。」
「これが落ち着いていられるかよ!あいつ、仲間を簡単に殺してるんだぞ!!」
まあそうなんですけどね。ギンタ君が感情的になるのは構いませんが冷静さを欠いたまま下手に突っ込むのは勝機が下がると思ったのでどうにか落ち着かせる為に次の言葉を紡ごうとすると私とギンタ君の間にドロシーさんが割って入った。
「頭に血がのぼりすぎだよ今のギンタン。次はドロシーちゃんいっきまーす!!!オーイ。出てこいよババアーっ!!!」
明らかな挑発にラプンツェルは再びキレかけ、ババア発言に対する反論で声色を震わせながら自分の年齢を暴露しました。まだ29歳だそうです。人を見た目で判断するのはどうかと思いますがこれだけは言わせて下さい。んな馬鹿な。
「ウソつけ。どうみてもサバ読んでるだろババァ。」
ラプンツェルに対しドロシーさんは髪をかきあげ、さらに煽りを入れます。女っておっかないですね。
あ、ひょっとしてラプンツェルは使う度年をとるダークネスARMの使い手なのでしょうか。それなら色々と納得がいくようなそうでもないような。
ドロシーさんの立て続けに決まる煽り言葉にラプンツェルは辛うじて抑えていた感情もついに崩壊して再びプッツン。やっすい挑発にキーキー奇声を上げながら試合位置へと前進します。なんかこれ以上無いほど目ぇ見開いてキレ筋立てて頭からブチブチ音が鳴ってます。何ですかあれホントに同じ人間ですか。
「ま、待てよねーちゃん!!あんなブスの挑発にのるなってば!!」
ギロムが激情したラプンツェルを止めるべく彼女の目の前に立ちはだかります。
そのまま「キィー!!!どきな!!!」→ビンタとかやらないでしょうか。
「ね、ねーちゃんの方が……全然キレイだ……ぜ……!?」
滅茶苦茶冷や汗をかきながらギロムがラプンツェルを宥めます、あれは本心なのでしょうかね。
そんなギロムのおせ…褒め言葉にラプンツェルはピタリと歩みを止め、ギロムに向き直りました。
「そうかいそうかいギロムぅ〜。かわいい弟がそう言うなら本当だろうねェ〜」
「あ、ああ!ホントだってば……!!」
そんな訳で見ているだけで面白い残虐ドリル姉弟劇場は終了、試合位置に立つドロシーさんは「あらら。あのババァのってこないや。つまんないの!」と少し不服そうです、そこにギンタ君が駆け寄りました。
さて、続きましてはギンタ君による天然女性のおとし方劇場をお送りいたします。内容は十中八九先日の私との会話のような物だと思います。
「ドロシー。」
「なあに?ギンタン。」
何時もと変わらないドロシーさんに対し、ギンタ君は会話を切り出し憎いのか顔を俯かせ少しだけ間を空けた後顔を上げて本題に切り込みました。
「ドロシーは、強いよね。」
「まあねー。……何が言いたいの?ギンタン。」
「チェスでも……殺しちゃダメだ!」
「でも…」
「ドロシーは女の子だろう?オレ、ドロシーが人殺しするところなんて見たくねェ!!」
CMなどに出てくるあざとい子犬のような表情でギンタ君がドロシーさん説得に畳み掛けます。
「甘いで、ギンタ。こいつは戦争……」
一人シリアスモードのナナシさんがギンタ君に肩ポンを決めるも。
「よし!!約束する。」
案の定ドロシーさんはギンタ君に丸み込まれました、チョロいなあ。
同時にナナシさんが隣でひっくり返りました。
「「やっくそっく、やっくそっくうっそつっかなーいっと」」
そのまま二人は、うふふあはは、と他人の踏み込みにくい空間の中、二人で指切りを決めたのでした。蚊帳の外感半端ないです。
「ギンタの奴……オイシイところもっていくぜ……」
「ぬっ…男のジェラシーじゃな?」
「自分もおいしくなりたいわ〜」
「あーいう風にストレートに物事を伝えられるのがギンタ君がおいしい目に合える秘訣なんでしょうねー」
「ミツキちゃんも?ミツキちゃんもギンタのおいしいめにあったん?」
「あってません。」
会話に参加しなかったアルヴィス君がこのやり取りを微妙な目で傍観していました。さっさと次の試合に移りましょう。
「第三戦!!!チェスの兵隊!!アヴルートゥ!!メル!!!ドロシー!!!開始!!!」
「オレのARM『シェラキー』!!こいつはどんなモノでも斬る!!ARMでも……だ!」
開始と同時に自身のARMについてベラベラと喋り隙を作るアヴルートゥ。
アリババと言い、あの人と言いバカなんでしょうか?
2NDバトルの彼女の試合、見ていなかったのでしょうか?一瞬にしてガーディアンを発動するドロシーさんに隙なんか作ったらブリキンでペチャンコかトトさんでぐっちゃぐ…
なんて考えている内にドロシーさんはダガー1本で正面から相手をナナメ一本に切り裂き、勝負を着けました。
いや…隙を作る相手をアホで愚かな頓珍漢とは言いましたが、明らかに力量差つきすぎてません?
他のメンバーも圧倒的な実力に驚いてますし…もうウォーゲームはドロシーさん一人に任せてもいいんじゃないでしょうか。
「なっ……何もしてない……」
「急所外したから。死なないよ♪」
血液の付着したダガーを口元に彼女は微笑し、ポズンの勝負ありのコールが響くと、普段の調子でドロシーさんは戻って来た。
「イエイっ!!これでいーい?ギンタン。」
語尾にハートマークを付けてドロシーさんがギンタ君に確認を取ると、たじろぐようにギンタ君が「は…ハイ。」とだけ答える。
対するチェス側にて、ドロシーさんに一瞬にして勝負を着けられたアヴルートゥはジャンケンもさせて貰えず首を落とされていた。無情。
「次、いきますっ。アヴルートゥのようにはいきませんからっ。」
そして出てきた次の相手はラプンツェルにひっぱたかれたあの女の子。