目と目でものが言えるんです
「ギンタが戻ってきました」
「そう、2ndバトルのメンバーにいなかったから気になっていたんだけどね。」
ペタの報告にファントムは含み笑いをし、ペタに向き直り続ける
「ペタ、少しだけ調味料をまぶしてみないか?」
「はあ」
「ちょっと、面白い趣向を思い付いたんだ」
21
はい、夜です宴です夕飯です外です風が気持ちいいです勝利の美酒は旨いです(中身は葡萄モドキのジュースですが)
宴では本日の戦闘の評価を貰ったり誉められたりしました、「ミツキさん強かった!」とか「姉ちゃん酷い事言うな!」だとか。相手がアホなだけだったんですけどね。
それとあのいまいましいスタンリー盗賊団が来ていました、彼等、ルベリア派閥だそうです。あの時の謝罪は貰いましたし大分前の事なのでもういいかと思っているのですが、うっかり飲酒して酔った勢いでウォーハンマーを発動させ、それで攻撃してしまったら折角仲が良くなりかけているナナシさんどころか他のメンバーとも嫌悪な仲になりそうなので宴から抜けさせて貰いました。
只、もともと宴のようなどんちゃん騒ぎが好きでないのと、相変わらず何かを考えてるアルヴィス君の視線が痛かったので抜けるのも時間の問題だったでしょうが。
そう言えば宴中にわかったのですが、どうやらギンタ君は前にこの世界に来た異世界人、ダンナさんの息子だそうです。本人が言ってました。私含めてそう都合よく肉親ばっかり呼ばれるものなんでしょうかね?
それにしても森林が近いせいか空気が美味しいです、宴での熱気が冷めていい感じです。
とか考えていると少し離れた所からギンタ君が何やら急いで何処かへ走って行きます。少し離れてバッボが跳ねながらギンタ君を追いかけていきました。
どうしたのでしょうか?ずっとここにいても暇なだけなので着いて行ってみますか。
ギンタ君の向かった方向へ、私は特に急いではいなかったので、歩きながら向かうと崖が出迎えてくれました。初っぱなからなんですかこれは。
下からギンタ君の切羽詰まった声が聞こえたので恐る恐る覗いてみます。大丈夫、この高さなら平気ですあまり高くないです。
崖の下にはギンタ君とバッボと…あれ?おかしいですね?
どうしてこんな所にトムさんがいるのでしょうか?
ギンタ君にしがみつき体を震わせているのは、ヴェストリの地底湖で出会ったトムさんに見えました。顔は伏せていて見えませんがあの左腕に大量に巻かれた包帯で確信しました。
どういうことなのでしょうか?彼は自分が勝手に正体は幽霊だと決着つけたはずなんですが。
崖の下を(自分にとっては)長く覗いていたせいか全身に寒イボが立ちはじめましたので一旦顔を上げます、はい、私超頑張りました。
取り合えずトムさんへの疑惑を捨てられない以上、見てみぬふりも何なのでどこか下に向かうルートを探し降りてみることにしましょう。
⇔遠回りしましたがなんとか降りることが出来たのでギンタ君達がいたであろう場所に向かうと、何やら揉めているように見えました、駄目とかなんとか。痴話喧嘩か何か?
「こんな所で男三人集まって、何が駄目なんですか?」
「あ、ミツキ!こいつトムだよ!ヴェストリの…」
「知ってますし見えてますよ。私、視力は良いので。」
なんかトムさんと再会した時にバッボと一連の流れをやったので同じ事をしたのだとか、トムさんが茂みから突如現れた私を見て「ミツキ?ミツキだよね?」と口にします。学校卒業後数年ぶりに再会した友人同士ですか私達は。
「で、何が駄目で何故あなたがこんな所にいるのでしょうか?」
「それがさ、助けを求める声が何処からか聞こえてここに来たらトムが倒れていたんだ。それで一旦レギンレイヴ城に戻ろうと提案したところなんだけど…」
「だって、城には…チェスがいるんでしょう?」
「はい?チェス?」
敵の陣地にわざわざ飛び込んで来るチェスの兵隊なんていませんよ…と言いたいところですがロランとか言う例外が出た以上、否定できないのが悲しいところです。
誰かが情報を漏洩したのでしょうか?裏切り者のスパイがいるとしたら大問題ですよ。
「ボク、チェスに命を狙われているんだ!」
「どういうことじゃ?」
バッボの問いかけに答えるように突如幽霊が現れます、なんてナイスタイミング。
ギンタ君は「なんだ…こいつら?」と若干警戒混じりの声で言います。同感です。
「うーむ…どうやらチェスに倒された戦士の亡霊達が、こやつの恐怖心に反応しとるようじゃな。」
「チェス関係ない亡霊もいるかもしれませんよ。」
「ヴェストリの地底湖の時と同じだ…」
「そう言えばあの時もトムさんの傍には多くの亡霊がいましたね。」
正確にはトムさんが現れてから増えた、ですが。
「ボクのせいだ…」
「はい?」
「ボクには…霊と感応しあう、特殊能力があるんだ」
ここでまさかの特殊能力展開です、いや、メルヘヴンなら何があろうと不思議では無いのですが。
ギンタ君は「そっか…あんときも、妙に幽霊達と親しげだったもんな」と納得してます。彼を幽霊認定した以上納得出来るようなそうでも無いような
「それなんだ…ボクがチェスに追われるようになった理由。実は…チェスに…」
「「チェスに?」」
一息ついて、トムさんは決心したように声を絞り出した。
「チェスに入って、その力を役立てろと誘われていたんだ!」
「なんだって!!」
な、なんだってー!!!と、やけに高いテンションでギンタ君に続けたいところですが堪えます、ちょっとシリアスな展開なので。
「なんと、チェスの奴、そんな事までしておるのか!」
「亡霊によって厄が降りかかるとヴェストリの方達が言っていましたし、チェスに殺された人の亡霊をトムさんの説得で成仏させるつもりなんでしょうかね?出来るかどうかは別として。」
「だからボクは、逃げて逃げて、逃げて…逃げて…」
逃げてヴェストリからここまで来たんですか、かなり距離のあるレギンレイヴまで、チェスの兵隊相手に。
アンダータは入手難易度高いそうですし(ドロシーさんが前に言ってました)生身の人間、しかも一般人がやったとなるとちょっと不自然な気がしますね。
「泣くなよ、トム。俺がついててやる、心配すんな」
私がトムさんを性懲りもなく疑っているとは露知らずギンタ君はトムさんの肩に手を置き、励ましの言葉をかけます。
「…そうだね、どうしてかな?ギンタ、それにミツキには、なんでも話せる気がする。まるで、昔からのトモダチみたいに。」
私も友達…ですか、ギンタ君はともかく失礼な事ばかりトムさんに言ってる気がする私もですか、なんてこった。
取り合えず何か反応しないと失礼だと思ったので「友達…目と目でものが言えるようになるあれですか」、とボケを入れるとギンタ君にお前ちょっと黙ってろといわんばかりの目で見られたので黙ります、すみませんでした。あ、目と目でものが言えてますよ私とギンタ君、やった私達これで友達ですね。
「実はボク、前の戦争の時に…家族をみんな、チェスに殺されたんだ。それから、ずっと一人ぼっち。」
家族も…ですか、それなら余計にヴェストリでの一件が気になりますね、しつこいようですが善良な村民から発せられた殺す発言が。
「みんなと、もう一度会いたい、幽霊でもいいから。そう強く思っている内に本当に幽霊と感応しあえるようになったんだ。残念ながら、家族の幽霊とはまだ一度も会えていないけどね。でも、いつかきっと会えるって信じてる。」
死んだ家族に幽霊でいいから会いたい…ですか。もといた世界だと行方不明の兄さんは死亡扱いされたので遺影まで作られているんですよね。なので本当に死んでるなら幽霊として一度だけ会って色々と話を聞きたいと思った事があるのでこれには同感です。
真実はどうであれ「きっと会えますよ」と一言だけ言うと、驚いたのか少しだけ目を見開き、戻すとトムさんは「ありがとう」とだけ口にした。本心とは言え、至って普通の当たり障りのない言葉なんですけどね。
「ボクは、この世界が大好きだ。花も木も石も、水も鳥も、でも、一番好きなのは人間だ。だから…人間を平気で殺すチェスは、絶対に許せない。だから、あの時ギンタに協力したんだ。でも、そのことがチェスにバレて…命を狙われるようになったんだ。」
協力を要請されたのは私達がヴェストリに行く前からの事でしたか、トムさん結構危ない橋渡ってますね。
「安心しろ、トム。お前は、絶対に俺が守ってやる!お前は一人ぼっちじゃねえぞ!お前は、俺のダチだ!」
「ギンタ…」
一連の流れが切れると、このタイミングを待っていたかのように、おそらくトムさんを追っているチェスの兵隊の笑い声が不自然な程周囲に響きます。彼等が友情を育む姿を見てほくそ笑んでいたのでしょうか?悪趣味ですね。
一通り笑い終えた後、目の前に誰かが現れます。あ、月に映っていた顔色悪い人だ。
推測するにああいった宣言をする人って基本的にそれなりの地位を持っていると思うんですよね、世界革命の大事な宣言を下級兵にやらせるとは思えないので。
「探したぞ、トム」
「チェス!?」
「チェスですね、記憶が正しければ月に映っていた人です。」
「出おったな」
「あいつだよ…ボクの命を狙っているのは。」
推測上、相手はおそらくナイトクラスとは思うのですが何故立場上偉い人が一般人のトムさんを追っているのでしょうか?部下に任せればいいじゃないですか。あ、やっぱトムさんは幽霊で彼じゃないと連れて帰れないんですかね?
「お前が…俺のダチ、トムは渡さねえぞ!」
「ギンタ…」
「その通りじゃチェスには渡さんぞ!」
「メルの一員な以上、一般人が襲われているのを知って黙って見過ごす訳にはいきませんので。」
ナイトクラスと言う推測が検討外れの方向に向かっていなければ、相手はおそらく魔力を意図的に抑えているのでしょう。現状は大した事ありません。
相手がどれ程の強さかはわかりませんが、ギロムの時とは違いガーゴイルがあるとは言えギンタ君と私だけじゃ少し厳しいかもしれませんね。
私達をビショップクラスだと仮定して、2対1で負けるほどナイトクラスは弱くないでしょう。
「バッボ…それを持つ少年…それに裏切り者の妹ではないか。丁度いい、相手をしようではないか、付いてこい」
間違ってはいませんが何かムカつきますね、その呼び方。実力差的に必要ないかもしれませんがわざわざ罠が仕掛けられているかもしれない所へとそう簡単に付いていこうだなんて思いま…
「いくぞ、バッボ!」
「おう!」
ちょっとギンタ君、少しは考えて行動しましょうよ。ウォーゲーム中ならともかく今は試合外なんですよ?
「トムはそこでミツキと待っててくれ!」
いやいや、相手はおそらく上級兵ですよ?1対1なんて勝ち目ほぼ0ですよ?「待てぇ!!」なんて追いかけてますけど下手したら死にますよ?
「敵は背中向けて反対方向に向かってますからトムさん担いでレギンレイヴ城まで急いで戻りましょうよ?」
と説得する為、追いかけようとするとトムさんに服を掴まれて阻止されます。「ミツキ、行っちゃ駄目だ」とか頭振られて。
「あの人、おそらくチェスの中でもトップクラスの実力者ですよ?ギンタ君死んじゃうかもしれませんよ?」
「ギンタにはガーゴイルがある、それにファントムは確かギンタを歓迎しているんだろう?だからきっと大丈夫。怖いんだ、お願い一人にしないで…」
「全然可愛く無いのでそんな捨てられた子犬のような顔で言うのやめて下さい。」
トムさんの言葉で思い出しましたが、そう言えばファントムはギンタ君の事、歓迎してるんでしたっけ?上司が歓迎している人間をウォーゲーム外で勝手に殺す…と言うのは少し現実離れしているかもしれませんね、ファントムがギンタ君に対して興味を失っていなければの話ですが。
「…とりあえず、ギンタ君が時間を稼いでいる間にレギンレイヴ城まで戻りましょう。戻れば、勝機はあります。」
そうとなれば、大急ぎでエドを眠らせて、おっさんを覚醒させないと。