初日家族
知らない国に来て知らない物を沢山見ました、初めて食べる物、訪れる施設、何もかもが新鮮で幸せでした。今ではもう当たり前のものなので特に驚きはありません。
そんな国に来てから数日の事です。

その日は雨が降っていました、やみそうでやまない曇り空でした。寒空の下、手を引かれとある建物の傍で、私の両親に当たる人が口を開きます。

「今日は仕事が入って忙しいからここで遊ぶんだよ。」

「大丈夫、入り口まで行って誰か大人が出てきたらこの紙に書いてある事を言えばいい。じゃあね、元気でね。」

そのまま両親は来た道を引き返しました。建物の前まで一緒に来てくれればいいのにと思いましたが忙しいので仕方ないのだと自分に言い聞かせました。
気持ち悪い子供ですね、当事まだ指5本にも満たない年齢だったと言うのに。

入り口まで歩き、雨に濡れる冷たく重たい鉄格子をガタガタと揺らすと、それほど経たない内に誰かが建物から出てきました。
傘もささず外にいる子供が異質だったのか職業故の慣れだったのかは知りません。
相手は私の身の丈にあうよう身を屈め、「どうしたのか」と優しく問いかけます。

私は両親に渡された紙に書かれたことをそのまま口に出しました。

「 」

何を言ったのか忘れましたが、非常にシンプルな文字の羅列でした。
とても、とても。





ボヤけて見える見慣れない天井を視界に収め、そうだここは城なのだと思い出す。新しい希望かどうかわからない朝が来たんですね、おはようございます。
頭だけ動かすと左右のベッドにはドロシーさんとスノウ姫、外は日が昇る直前の明るさ。

久々にあの日の夢を見ました。
正直、まだ両親に未練があるのか?と自分に驚いています。何年も前の事なのに、らしくないですね。
失踪した兄さんの事を先日さらっと説明(6年前に兄が失踪した、とだけ)したからでしょうか、それとも結局予選の時点で期待に沿わず姿を現さなかったからでしょうか。なら兄さんの夢を見ればいいのに、おかしいですね。

目が覚めてしまったものは仕方が無いので、顔を洗い、一人外に出て鍛練でもしようかと鏡面台に立ちます、今日からウォーゲームですから。

鏡に映る自分はいつも起床時に見る自分と同じ顔をしていました、相変わらず目付きが悪い。


14


さて、それから時は過ぎついに開始ですウォーゲーム。
審判は昨日に引き続きファンシー生物ポズン。奴の最初の言葉は「昨夜はよく眠れましたか?」ですって、聞きました?
私はそこそこ眠れました。

「では、これよりウォーゲームの…ルールを説明いたします。」

バトルはチーム戦、人数、フィールドはダイスにより決定。死にさえしなければ個人が負けてもチームが勝利すれば次のバトルに参加可能、反対にチェス側はチームが敗北しても勝利した個人は今後のゲームに参加可能、わかりやすい説明ですね。

「えーと。どういうルールだナナシ。」

「キミの頭はスッカラカンか!!」

ですが信じられない事にギンタ君は何も理解できていなかった模様、なんということでしょう。きっと頭を掴んで揺さぶったらカラカラ音がするのでしょうね。
髪の毛が手を貫通しそうなので遠慮しておきますが。

「つまりチームとして勝てばいいって事ね。万一負けたとしても…個人で勝った人間には次がある!」

「最終的には…強い人間だけが残っていくゲームなんだね。」

「それでも向こうは戦力の代えがありますしこちらの手の内を判断してから誰を出すか決められる分あちらの方がだいぶ有利ですけどねー。」

「敵さん主催のゲームやからその辺りはしゃーないな。」

「ルールは前回と同じようだな。とすると…キャプテンを決める事が必要か?」

アルヴィス君が一歩前に進み、ポズンに尋ねる。

「左様。あなた方6人の中で一人、キャプテンを選んで頂きます。」

チームが勝利してもキャプテンが負ければゲームは終了、終わりの見えない戦いのキャプテン。なんて、圧があるのだろう。
前回はクロスガードのキャプテンが「ダンナ」さん、チェス側は1ナイト「ファントム」だったそうです。何故ナイトなんですか?チェスと言ったらキングじゃないですか。これじゃあチェックメイト出来ずに終わるじゃ無いですか。

試合終了後に「キングを出せ」と相手のキャプテンに熱い死体蹴りをかませば何か適当な言葉を吐きながら出て来くれるのでしょうか?

「さあ、誰を選びます?」

さあ?誰が選ばれるでしょう?
アルヴィス君、ジャック君、エド、スノウ姫、メンバーのほとんどが一人の人間に視線を向けます、はい、お馴染みギンタ君です。

「お……オレ!?」

「本当は、オレかアランさんにしておきたい所だが、アランさんは今、犬の中。それにキミは…ダンナさんと同じ、異世界から来たという共通点がある。」

「ならミツキでもいいじゃん。」

良くないですよギンタ君。
アルヴィス君、フォローミー。はいっ

「ミツキは女の子だろ?オレとアランさん…は今はいないから、ナナシがフォローするにしても負けたら即終了の戦いの責任を全部押し付けるのは酷だろう。」

「いい事言ってくれますね。」

「アルちゃんやっさしー!」

「なんだその馴れ馴れしい呼び方は。」

そうそう、そう言う事ですよアルヴィス君。それに彼にはまだ完全に信用されていませんしね。口には出していませんがこれが一番の理由でしょう。

「期待されてるってコトだよ」

ギンタン、とハートマークをつけてドロシーさんがギンタ君にちぅ、と頬に口付け。ギンタ君の反応は薄め、慣れって怖いですね。

「不安でイッパイだけどな。」

「だったらお前なれ!!バカ!!!」

と、まあこんな感じでキャプテンが決まりました。さっそく1stバトルの為のフィールドと参加人数を決めます。ポズンのウォーゲーム開始の合図と共にレギンレイヴ姫が城からダイスを投げます、落ちます、出ました。

「人数3対3!!!場所はこの地!レギンレイヴフィールド!!」

対戦用の8×8マスのフィールドが地面からひっくり返り現れます、ナナシさんがほぇーと感心しています。

「出でよ!!チェス第一のチーム!!!

ロドキンファミリー!!!」

………

誰も出てきません

「…コホン、もう一度、ロドキンファミリー!!!」

………

やはり出てきません。
バトルを観戦しに来ているもの好きな民衆から「おいおい大丈夫かチェス」「キャーナナシサーン」とざわめきが起こりはじめます。
何がナナシさんなんだろう。手を出すの早すぎでは?

「ロドキンファミリー!!!
ロドキンファミリー!!!
ロドキンファミリー!!!」

何度も声をあげますが、いくら叫んでも現れません、最後の方は弱冠涙声が混ざり、敵ながら少しだけポズンがかわいそうに見えてきました。

「グス…ロド…あ…今通信が入りました、誰を選出するか少々揉めていたそうです。」

選出を揉めていたって…。そっちは人材過多なんですからダイスの目事のチームを最初から決めておいてくださいよ…
ファミリーはファミリーでもマフィアとかそっち系のファミリーだったのでしょうか。

「それではあらためまして、出でよ!!!
ロドキンファミリー!!!」

ようやく『ロドキンファミリー』のお出ましです。遅れて来た癖にどいつもこいつもしたり顔です、ドヤ顔です、キメ顔です。何なんですかこいつら。
キメ顔なのがマフィアの頭っぽい強面のおじさん…彼だけピアスがビショップクラスなので、実質このバトルのキャプテンなのが伺えますね。

したり顔なのが仮面をつけてなんかポーズをとってるチャラ男。ルーククラスです。

ドヤ顔なのが露出多めの白目がちな女の子、1個40円ちょいの棒つきキャンディーのような武器を構えています。説明せずともルーククラスです。

「へっ!本当に7人だけだぜ!」

へっ、本当にチャラ男だぜ!

「ラクショーっぽいカンジ!ねっオヤジ!」

ラクショーっぽいカンジ、ですよねアルヴィス君。あ、睨まないで下さいすみません全然ラクショーじゃ無いです。

オヤジと呼ばれた人は無言。
ビショップクラスですがキャプテンのギンタ君は一度勝っているクラスですし、アルヴィス君やナナシさん、ドロシーさんも控えてる分勝てる布陣はいくらでも組めるので最悪の事態はまあ免れるでしょうね。

ポズンがメンバー選出を促すのでちゃっちゃと決めましょう。

「ほな…グーとパーだけやで!!」

何故かナナシさんがその場を仕切り、しょうもない方法でメンバー選出を決める羽目に。
文句の一つでも挟むと思っていたアルヴィス君が普通にのってくれたのが意外でした。
その間、ポズンから「あいつらやる気あるのか」と言わんばかりの視線を終始感じていました、反応すると負けだと思うので気のせいだと思うことにしときます。気のせい気のせい。

さて、厳選なるグーパーの結果、アルヴィス君、ジャック君、そしてギンタ君の3人が1stバトル参加者に決定。
相手の仮面を被ったチャラ男が女の子と戦いたかったと最初にフィールドに上がります。女の子だったら手加減でもしてくれたのでしょうか
さて、記念すべきこっちの一戦目は…

「まずオレが出よう。これが実戦だというモノを見せてやる。」

やめてください。
なんかカメラ目線でも意識しているような顔で言ってますが、「必ずキャプテン同士で試合をしろ」なんてルールは設けられてませんし、戦い慣れしてるならあなたがこのチームのボスであろうビショップクラスと戦った方がいいじゃないですか。考え直してくださ…

そんな心の声なんておかまいなしに一回戦開始のコールがレギンレイヴフィールドに鳴り響くのでした、試合開始。
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