材料をパクられた話
2月、メルヘヴンでもまだまだ冷え込みが続きます。外では積もった雪の上に以前14歳組+盗賊一名で作られたバッボに良く似た雪だるまがいて歪な形でこちらを見ています。

レギンレイヴ城のスノウ姫、ドロシーさん、私の使っている部屋の暖房の側の窓から少しだけそれを眺め、城から適当に借りてきた本に目を戻します。タイトルは『トマトでもわかる美味しい野菜作り』自分で持ってきてなんですが何なんでしょうこれ、一体どんな人がこれを書いてるのか気になりますね。

著 ヴィーザル

何やってるんですかチェス。ジャック君が見たらたまらず破りますよコレ。
あ、発行日7年前だ。

と、内心突っ込みを入れつつこの本をどうしようかと考えているとスノウ姫、ドロシーさん、ベルちゃんが楽しそうに声をかけてきました。

「ねえねえミツキ!知ってる?今日は、」

「2月14日、多くのカカオと砂糖の混合物が消費され世界中のリア充が何度も大勢爆発し時には玉砕する…クリスマス並みにこれからの人生に変化が起きそうな冬の一大イベントの一つ、ですね。」

「いやいや…そこは普通にバレンタインデー、でいいじゃないの。」

はい、バレンタインデーです。メルヘヴンでもあるようです。
どうでもいいですがここ一週間ウォーゲームが休戦状態です。脳ミソまでとろけてるあの包帯ゾンビの計らいです、何も貰えずショック死しないですかね。
無理でしょうね、少なくともあの変態SM女と腹黒堕天使には貰えるでしょうから。顔も悪くは無いですしね、性格は最悪ですけど。

あとあの細目とポーン兵がイチャイチャするのが容易に想像できます。「イアン、チョコレートです」「ギド、チョコが顔に付いてるぜ。」「やだ、恥ずかしい…」「そんなギドが好きだ」「イアン…」「ギド…」とか言い合うんですよきっと。自分で適当に考えといてなんですが背中がむず痒いです。

「で、今から作りでもするんですか?」

「そうなの!ね、ミツキも一緒に作ろ!」

「断っては駄目ですか?」

「はぁ〜やっぱり言うと思った。」

ベルちゃんが呆れながら言います、やっぱりってなんですかやっぱりって。
そもそも甘いものは貰えば食べますが自分から食べようとは思わない位自分の中では優先順位が低いんです。
ですからお菓子を作る事はあまり気が進まないんですよね、他人に渡すものとはいえ。
3人の思い人に対する火花散る厨房の中で一人肩身を狭くしているのも嫌ですし。
かと言って彼女達の行為を無下にするのもあれですよね。

「すみません、折角の誘いを断って。あまり料理が得意ではないので気が進まないんです。お詫びと言っちゃなんですがよければ材料の調達をしてきましょうか?」

あ、我ながらいいアイデアです。





材料の買い出しに城下町に出てきました、やはり賑わっていますね。

城から出たとき入口付近に2ndバトルでスノウ姫と戦った方と自分が相手にした人が花束持ってうろついていた気がしましたが気のせいでしょう。
なんか「姫に渡してくれ」だとか「勘違いするなよ、お前じゃなくあの方にわた」とか声かけられた気がしますがさらに気のせいでしょう。貰えないから逆に渡す方式もあるんですね。

気のせいな話はどうでも言いとして、ドロシーさんとスノウ姫は私の分も何か用意してくれているようでした、友チョコって奴です。

そうですね、折角のリア充気分を味わうのも悪い話では無いので普段のお礼もかねてメルのメンバー他お世話になっている方々に何か贈らせてもらいましょう。
金銭で何とかできる範囲に限りますが。

男性陣には無難にチョコレートでいいですよね?偏見ですが男性という生き物はチョコレートの数で己のスペックを競うらしいですし。
あまりお金を持っていないのでスナック菓子レベルになりそうなのがあれですがまあそれなりの気持ちが籠ってれば問題はありません。

とりあえずまずは材料の買い出しに向かいましょう。





材料と言う名の大量の板チョコは買いました。当日だと言うのに意外と材料レベルの物もまだ売っているものですね。他の材料はレギンレイヴ城の厨房にあるそうです、まあ城ですし。

自分から引き受けたとは言え正直あの人混みは中々に辛い物がありました、一度材料だけ置きに戻りましょうか。
あーでも気のせいが気のせいじゃ無かったら嫌ですね流石にあれを二度目撃したら気のせいに出来ませんし。

と、そんな時でした、何者かに腕を引っ張られ何故か人気の無い路地裏に引き込まれます。
新手のナンパですか?

「やあ。」

ナンパの方が何倍もマシでした。
何でここにいるんですか脳内お花畑で笑顔な司令塔は。今日も目が笑っていません。

「何でこんなところで油売っているんですか、レスターヴァに帰ってください。」

「ミツキ、今日はバレンタインなんだって。」

予感はしていましたが案の定話が通じません、これだから電波は嫌いなんです。なんで兄さんはこんなのと友情関係にあったのでしょう。

「そうですか、きっとチェスの方々にチョコレート貰ったんでしょうね、よかったですね。」

板チョコで腕は片方塞がっているうえ狭い路地裏なのでウォーハンマーは出せません。
変わりにいつだかドロシーさんに貰ったダガーで目玉でもくりぬいてやろうと期待を込め躊躇無く突きをかまします、が、あっさり止められました。そのまま引き寄せられそうになりますが誰が寄りますか、腰を引いて重心を傾けます。
なんとか寄らずにすんだものの微妙な体勢になったので体がつりそうです。
端から見たらすごく馬鹿馬鹿しいポーズを取っている事でしょう。

「そうなんだよ、キャンディスとロランはじめ沢山貰っちゃった。あ、ひょっとして嫉妬してる?病む…何だっけって奴?」

「こんなのでヤンデレとか全国のヤンデレの皆さんに謝罪案件ですよ。それにヤンデレ予備軍ならあなたのすぐ側にいるじゃありませんか。」

ほら、天使の羽根(ランドセルでは無い)生やしてせっせと毎朝三つ編み作ってる彼ですよ。

ってその彼を含めたあの二人はやっぱり渡したんですか、ファントム〜とか言いながら渡したのが目に見えますね。

「ペタにも貰っちゃった。」

「え゛あの人も?」

いやいや、深く考えてはいけません。上司だからビジネスでチョコレートプレゼントしただけですよね?あるいは友チョコ。
それでもあの人がそんな事するとか意外ではありますが。

「って、そんなあなたの事情はどうでもいいです、離して貰えます?そろそろ不快になって来たので。」

「ボク達トモダチなんだしチョコレート欲しいなって。」

「勝手にトモダチコレクションに加えるのはやめてください。」

私とあなたは友達じゃないですがあなたの友達と私が友達と言う奇妙な関係ですらありません。

と、言うと唐突に手を離されます、重心を傾けていたのでそのまま尻餅をつくように受け身も取れず転倒、自分だけが無様です。なんなんですか。

「無様だね。」

「自分でもそう思いましたが貴方に笑われると腹立ちますね。」

ごめんごめんとか言いながらお花畑は手を伸ばします、誰が手を取りますか。
そして私の予想に反して彼はそのまま今の衝撃で少しだけ散乱した板チョコを一枚拾い上げました。
うわ、自分恥ずかしい。

「これ貰っていくね。」

「あの、それざいりょ…」

「じゃあね。」

唐突に現れたと思ったら奴はドロシーさんとスノウ姫の出してくれたお金で買った材料こと板チョコ1枚をひらひらさせつつへらへら笑いながらアンダータで戻りました、縁起でも無いので塩撒きましょう塩。

こうなってしまった以上私の責任なので自分の財布から盗られた分の材料をもう一度購入しました。
結果的に私があいつにチョコレートあげたみたいになったじゃないですか、あーおぞましい。
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