幽霊騒動とかなんとか
ヴェストリに到着して以降、ギンタ君がやたら腹をたてているのには訳があるそうです。
過去に大事にしていたプラモデルをいじめっこに壊されたんですって。「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」。ジャイアニズムはどこに行っても健在なんですね。

壊れたプラモデルのカタキをとれなかったことが悔しくて、作るのが嫌になって塞ぎ混む直前だったそんな時、幼馴染みの「小雪ちゃん」と言う子に励まされてもう一度作って、そんな訳でその時の小雪ちゃんの意思をギンタ君は継いでる…という感動的な話をしてくれました、いい子ですね、小雪ちゃん。

あと亡霊はやっぱりいました、メルヘンな世界って妖精やら魔法やら非現実的なものが多いですし、こっちでは幽霊も常識的な物だと思いましたがドロシーさん的にはアウトだそうで。

ギンタ君の話を聞き、幽霊相手に騒ぎながら(この際チェスにバレるのはお構い無し)歩く事7、8分。目前には二手に別れる道。
4人いますし、2、2で誰と組んでどっちに進むかここは公平にジャンケンで決めましょう

結果はドロシーさんとナナシ、私とギンタ君とバッボというなんともまあ、面白味のない組み合わせに落ち着きました。

「自分らはこっち、気ィつけてなギンタ!!ミツキちゃん!!」

「そっちこそ!!」

「まあ精々死なないで下さいね」

ナナシには謝罪と言う名の言いたいことをまだ言ってないので。
ドロシーさんもお気をつけて。


10


魔女、盗賊の色物組と別れた直後、バッボが少しだけ興味深い事を口にしました。

「のォ…ギンタ…ミツキちゃん…ナナシとかいったな、あの男!!」

ナナシとか言ってましたねあの男

「ずっと気になっていたのだ。あいつにはお前達と同じニオイを感じておった!!」

「ニオイ?まーたお前はバカな事言ってーっ!!バーカ。」

ギンタ君は反射的に自分のニオイを嗅いでバッボを馬鹿にしましたが、多分そう言う意味で言ったのでは無いと思います、口に出しませんけど。
ギンタ君の検討違いな発言と、馬鹿にされた事に腹をたてたバッボは「もういいわいフンっ!!!」と、ふて腐れてしまいました。

バッボは何が言いたかったんでしょうね?少しだけ考察してみましょう。私とギンタ君の共通点、ゲームが好きだとか出身校が同じとか異世界から来たって事でしょう?ナナシもゲームが好きなんでしょうか、それとも実は異世界から来た人間だったりするのでしょうか?

……亡くなった筈のダンナさんって人だったりしないですよね?

ま、死人は普通生き返りませんからこの線は無いでしょう。チェスの兵隊のNo.1ナイトファントムとか言う人は例外です。

さて、無駄話はこれくらいにしてそろそろ奥に進みましょう、バッボも同意見なので。

そんな訳で進むつもりで足を踏み出そうとしたんですけどね、妙なんです。
ギンタ君は何も気付いて無いのですが、寒気と言うか殺気と言うか何とも形容しがたい気配を感じるんです。
人の気配だとか魔力だとかならまだいいのですけど。

「そこに誰かおるな!?出てこい!!!」

バッボの呼び掛けに答えるように洞窟の影から「誰か」が姿を現しました。左腕に尋常じゃないほどの包帯を巻いていて右目が髪で隠れているバランスいいんだか悪いんだかよくわからない、それでいて何処か死んだ魚のような目をした人でした、さて、彼は何者でしょう?

「ごめんなさいあやしい者じゃない。ボクはヴェストリの村民でトムっていうんだ。」

答えはヴェストリのトム…さんだそうです、「ヴェストリ」がファミリーネーム、「の村民で」がミドルネーム、「トム」がファーストネームというわけではありません。

トムさんとか言う人は誤解を焦って弁解。自称「怪しい者じゃない」程怪しい言葉は中々ありませんが、仕草だけ見ればごく普通の善良な村民に見えますね、さっきのあれは何だったんでしょう。

「なんだ。チェスかと思ったぞ!!!」

チェスじゃないと確定した訳では無いのですよギンタ君?
もう少し疑ってかかりましょうよ。

「ボク達を助けようとしてくれる皆さんにとても感謝しているんだ。少しでも君達に協力したくてここへ来た。ボクに戦う事はできないけれど……迷わずに道を教える事くらいならできるよ。同行させてくれないか?」

ひとつの仮説を建てましょう、実はこのトムさんは幽霊で私達を的はずれな所に案内してあの世に連れていこうとするんです。
だって協力したいならさっさと声をかければいいじゃないですか、何故しなかったんですか?何でバッボが呼び掛けるまで姿を現さなかったんですか?怪しくないだなんてとんでもない、善良な村民装いしていますが超怪しいです。
でもギンタ君は疑いもせずに同行を許可するのでしょう?

「そいつは助かる!!よろしくなトム!!」

ほらね、案の定
これは私もヨロシクしないといけない空気。

「…よろしくお願いします?」

「うん、宜しくね。」

なーんかトムさんが心底楽しそうにしているのは気のせいですよね?「いいカモが手に入った、このままこの馬鹿共をあの世に案内してやるぜふひひ」とか思ってないですよね?
そんな事になったらギンタ君を置いて私はさっさと逃げますからね、死ぬのは寝床の中って決めてるんです。ギンタ君は自業自得です、皆さんには私を庇って最後まで勇敢に…とでも言っときます。
話が反れましたね、戻しましょう

「……でさあ。こいつら幽霊……憑いたりしねェ?」

「平気。ボクはここが好きでよく来るんだけど…何かされた事なんてない。」

「こんなトコが好き?ヘンだなお前…」

「そうかな?」

「これに関してはギンタ君と同意見です。」

「これに関しては、ってどういう意味だよ!」

続けざまに隣から文句を言われている気がしますが知りません、あーあー何も聞こえません。

「でも入ってきたのは久しぶりだ。なつかしいなこの感じ……」

変な人ですね、好きでよく来ているのになつかしい?実は見た目に反してかなり年いってる人なんでしょうか、いつだかのロコちゃん(でしたっけ)のように。

「キミ、なんて名前?」

「ギンタ!虎水ギンタ!!」

「ギンタ……変わった名前だね。」

そりゃ違う世界からやって来ましたから
あまりそう言うこと簡単に言うものじゃないですけど。
でもギンタ君、バカですから馬鹿正直に違う世界の人間だからとか言ってます、ばか。

「面白いギャグだね!」

「ギャグじゃあない!!ホントにメルヘヴンとは違う世界から来たの!」

アルヴィスってムカツク奴に門番ピエロってARMで呼ばれた事まで詳細に説明してます、もっと危機感と言うものを持った方がいいですよギンタ君。
アルヴィスがムカツク事には同意ですが知らない所で個人情報の漏洩をされている彼には少し同情します。

「こいつはオレのARMバッボ!一緒にチェスを倒すんだ!!」

「ふーん。」

なんか滅茶苦茶馬鹿にされてますよギンタ君、あと一瞬不気味でしたよこのトムさんって人、英文の登場人物みたいな名前しやがって。
馬鹿にされた事に感づいたのかトムさんを一方的にぽこぽこと叩き始めます、痛がってますよギンタ君。

「ゴメンゴメン。だって…チェスって強いよ?」

「知ってるさ!でも絶対に倒してやる。オレ、あいつらが許せねえ!!あいつらのせいで…たくさんの人々が苦しめられているんだ!!誰かが止めなきゃいけない!オレはそれをやる!」

立派ですね、自分には到底真似出来ません。

「6年前のダンナさんのように?」

「ダンナ知ってんのか!?」

「当たり前さ。有名人だから。」

「オレはダンナを越えるぜ!」

ピースを決めながらいい放つギンタ君をトムさんはいい笑顔、超いい笑顔で見ていました。

「………ワクワクしてきたよ。期待してる…」





会話も途切れて少し進んだ所での話です。

「ねえ、キミは何ていうの?名前。」

「耶麻田華子です」

今流行りのキラキラネーム風に適当に答えたら

「それ本当?」

なんて返されました。なんで疑うんですか、この世界じゃ珍しい名前の筈でしょう?

「今のは聞き流して下さい、私はミツキです。」

「ミツキも異世界から来たの?」

「ノーコメントで」

「それは肯定と見てもいいんだね?」

「お好きなように」

「ミツキはなんかボクに冷たいね」

ぶっきらぼうに会話を受け答えしていたのが災いしたのか、只でさえ悪い空気がさらに重くなった気がしました。
うーん、警戒している相手にフレンドリーに対応するのって難しいですね?

そんな事を考えているとギンタ君から、

「ミツキは普段からこんなんだぞ」

との声が。ナイスフォローですギンタ君。
それを聞いたトムさんは何を思ったのか緩んだ顔で

「へぇ…キミも面白い人だね」

だなんて訳のわからない事を言いやがったので

「どこが面白いのかさっぱり理解できません、そう言っておけばいいとでも思っているんですか?」

と自分でも初対面の相手に言うもんじゃないよなぁ、と考える程の言葉を相手に投げていました。

「きっつい事言うなぁ、ひょっとしてボクの事嫌い?」

「嫌悪感はありませんよ、……警戒対象なだけです。」

「なんだよそれ、トムは俺達に協力してくれているんだぞ?」

ギンタ君にとってトムさんはもう信用の範囲内にいるようですね、疑いの目を向けた事(と、多分暴言)に対して機嫌が悪そうです。よし、言い訳と言う名の考えを暴露させて貰いましょう。

「んー、そうですね。実はトムさんはここの力の強い幽霊の類いじゃないかと私は睨んでるんです。だって気配も無しに私達の前に現れたんですよ?怪しくないですか?このままあの世に案内しようと企んでいるんです。」

「んなわけ……無いよな?」」

トム、とギンタ君はトムさんに冷や汗を流しながら顔を向け、心なしか「こちら」にじりじりと寄ってきてます、うん、わかりやすい。
当の本人のトムさんは笑いながら首を傾け「どうだろう?」とか言ってます、全然可愛くありませんよ。

「それにですねギンタ君。ここはメルヘヴンですよ?魔法もあるし、妖精だっているんです。現に幽霊だって目の前を横切って洞窟内を徘徊しています。村に戻ればトムさんが本当に善良な村民だと言う証明を貰う事は可能ですが、この洞窟内では肯定材料は何一つとして存在しないんです。私達はこの世界の事を語れるような知識は依然としてありません。バッボは記憶を無くしていますし、より正解に近い判断を下せる味方が誰一人としていない今、疑えるものは片っ端っから疑うのが当然です。」

「うーん、ミツキは随分と慎重に物事を考える人なんだね。でも神経張りつめ過ぎるとかえって疲れるよ?ほら、もっとリラックスリラックス。」

「ここまで言われても気分を害さずに平常心で対応出来るなんて、随分と寛大な心をお持ちなようですね。……本当に見た目通りの年齢ですか?あなた?」

「よく言われるよ、いい性格してるねって。」

それ褒められてるのか貶されてるのか判断に困る奴では?
私が内心突っ込みを入れているなんて知らずにニコニコ笑いながらトムさんは続ける。

「……実際ボクは何歳だと思う?ギンタも当てて見せてよ。」

「えっ、うーん…エドよりは年下に見えるから20くらい…?」

「どちらの姿にせよ比較対象おかしくないですか?じゃあ私は58歳で」

「いくらなんでも、それは無いだろミツキ…。つーかどっから出てきた数字だそれ。」

「ボクが人間じゃなかったら案外それくらいかも?」

「やった、当たりました。」

「おいおい、ミツキの悪ノリに付き合うのはよしてくれよトム〜」

ギンタ君の声とこの状況を楽しんでるトムさんの笑い声が洞窟内に響いていました。
…いつの間にかトムさんのペースに乗せられて談笑に花を咲かせてましたが、チェス討伐に来たんですよね私達?





「なっ…なんだ…こりゃ!!」

洞窟を抜け私達を出迎えてくれたものはなんという事でしょう、修理のしがいがありそうな程ボロボロになった「幽霊船」と形容するのが相応しい船でした、そして。

「下がってろトム!」

「え?」

「魔力だ。つまり…」

「「チェスの兵隊って奴だ」ですね」

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