奴は盗賊のボスである、名前はまだ無い
「なあ…ギンタ!!それ何スか?新しいARM?」

修行後、180日前には存在して居なかったギンタ君が首にかけてるARMに疑問を抱いたジャック君がそう言えば、と問いかける。

その正体は只のドッグタグで修行中にスノウ姫に作って貰ったそうです、ラヴラヴですね。

それを聞いてジャック君はまたもやピリピリし始め、ドロシーさんはダガーリングをプレゼントするもあっさり玉砕。ショックで動かなくなってしまいました。二人とも、きっとこれから良いことありますよ。

それはともかくとして、スノウ姫曰くこの世界には大きく分けて3つの軍団、警察的組織のクロスガード、お馴染みチェスの兵隊、盗賊ギルドルべリア、が存在するとの事。

ドッグタグのデザインはバッボを元にしているらしく、スノウ姫は新しいチームを作る為のエンブレムにするとか。

「もっとマシなデザインの方が…」

エドの意見はバッボを怒らせるだけでした。
ところで盗賊ギルドですか、嫌な思い出があるので出来ればもう二度と遭遇したくありませんね。

「キミ達チェスの兵隊を倒そうとしてるんじゃないの?新しいチームじゃなくてクロスガードってのと合流すればいいじゃない!」

ドロシーさんの言うことはごもっともです、そっちと合流した方が安全も確保出来そうですし、武器の補充やまともな食事もとれるでしょう。
しかしわざわざ新しいチームを作るのにも理由があるそうです、それではスノウ姫、説明をどうぞ。

「……私がレスターヴァから逃げる前日、城の占い師から、こうお告げがあったの。」

城からお逃げなさい、姫
そして

新たなる軍をおつくりになるのです
七人の小人達を探すのです

その七人は

必ずや姫様を…メルヘヴンを守る者達となりましょう

回想終了、七人…ですか
なんかスノウ姫ってシンデレラと白雪姫を足して2で割ったような境遇の中にいますね。こう言うのに良くある意地悪な義姉はいなさそうなのが、不幸中の幸いと言うか。

話は戻して、7人…ギンタ君、ジャック君、おっさん、あと私は確定でしょうか?成り行きで共に行動しているドロシーさんとARMのバッボは数に入れてもいいのかはちょっとわかりません。

「クロスガードはもう、ほぼ壊滅状態。軍隊としての機能は低下している。
中にはダンナさんがいなくなった事で戦いに恐れを抱いてる人達も多いの。だから私達で、チェスと戦うチームを結成!!」

「スノウも入れたら、八人だけの軍団か!悪くねーな。オレ達の名前
メルヘヴンを救う八戦士で!!『メル』ってどうだ?」

いいんじゃないでしょうか?シンプルで。
賛成多数ですしこれで決まりですね。

「『バッボズビクトリー突撃隊』じゃダメか?」

「あんただまってた方がいいよ。バカなんだから…」

後ろでは珍しくバッボとドロシーさんがコントをしていました、仲が良いですね。

「それでは『メル』!!出撃しますかな!!」

そう言ってエドワードが出したARMはマジックカーペットと言う宙を浮く絨毯のARM
これで海を渡るそうです、勿論空を飛んで。

空 を 飛 ん で

ごめんなさい、

「私やっぱ7人の内に入らないみたいです。」


08


無理でした、結局カーペットで移動する事になりました。周囲に生えていた木にしがみついてプライドも捨て必死に抵抗しましたがギンタ君とジャック君の二人がかりでひっぺがされ、スノウ姫とエドに説得され渋々カーペットに。今、海の真上を飛行中です、ああ考えただけで恐ろしいです。全身に鳥肌が立ちます、目を瞑りたいですが瞑ったら瞑ったで恐怖に襲われます。自前の箒で移動できるドロシーさんはあんな細い棒一本で空を飛んでいますが、正直どうかしてると思います。

今更告白しますが私、高所恐怖症なんです。

今はカーペットの真ん中で足を抱えてスノウ姫に背中を擦って貰っています、別に酔ってるとかじゃ無いんですけどね。恐らく周りから見た私は死人に近い顔をしている事でしょう。
本来ならば安全性の面から見て私の位置に来るのはスノウ姫なのですがわざわざこんな私を優先してくれました、感謝です。

そして先程はしゃいでカーペットを揺らしたギンタ君を私は許しません、後で覚えていてください。

このせいだけではありませんが、どうも修練の門で予告無しに私達を落下させたおっさん、ギンタ君をあんな不安定な足場に乗せて地上から押し上げたアルヴィスは好きになれません、アルヴィスは別に私に危害を加えてませんが。
あとこの二人は性格面も余り得意なタイプじゃないです。

「ミツキ、ミツキ、大丈夫?顔、酷いよ?」

「そう言うのは顔色と窺うのが世間的なマナーですよスノウ姫…」

「ごめん…でも心配しているのは本当。だって真っ白だよ?氷の城にいた時よりも酷いくらい。」

「白いんですか…ちょっと顔に塗料を追加するだけでピエロの真似事でも出来そうですね…。」

「……本当に大丈夫?無理に冗談吐かなくてもいいよ?」

「なんでもありません、忘れて下さい…」

迷惑がかかっているのは承知の上ですが、こうアホくさい事でも言わないとメンタルが持ちません。こんな損な役目を快く引き受けてくれたスノウ姫は、天使か何かですか?ごめんなさいスノウ姫、その内に何か奢ります。

なんかギンタ君がエドとドロシーさんと喋っていますが知ったこっちゃありません、現在進行形で恐怖と戦っているこっちはそれどころじゃありません。

今ですらこんな状況で恐怖と不安の真っ只中に追い込まれているのに、この後これ以上の恐怖に晒されるなんて誰が予想でしょうか?
私は少し考えましたがすぐに消し去りました、縁起でも無いですから。

そしてそれは安堵の直後に起こったのです。

「ミツキ大丈夫……?今度は真っ青だよ?……あっ!見て!地上!!!ヒルド大陸だよっ!!!」

「み、見えてきたのはいいですがっ、揺らすのは!控えめに!お願いします!」

これで少し安心したのです、あとは着地まで我慢すればいいだけですから…
そう、着地まで我慢すれば
がま……あれ?気のせいでも何でも無い嫌な音が下からたくさん…

嫌な音は大陸側から放たれた槍による物だったそうです、後でスノウ姫から聞きました。

それがそのままカーペットを突き破り、穴だらけにしたそうです、誰に当たる事もなかったのが不幸中の幸いでしょうか?

ズタボロになった絨毯はARMとしての効力を失い、そのまま落下。

私の心もズタボロになりました。戦闘でも抜ける事の無かった魂が口の端から「こんにちわ」していたかもしれません。

落ちた直後の事は覚えてません、少しの間気絶してたからです。けれども直ぐに回復しました、なんか知らない人が来たからです。

「ケジメ。取らせてもらわなアカンなァ。」

金髪の長髪で目の前見にくそうだなーって人でした、あと何故か関西弁でした。何でメルヘヴンに関西弁?分析終わり。

「キミら……チェスの兵隊やろ?死刑や。」

親指をガッと下げる地獄送りのジェスチャー、台詞もその行為も最初から最後までこっちの台詞なんですが???
もうこの人がチェスだろうがクロスガードだろうがお構いなしです、悪意があった事を認識したので敵とみなして構いませんね?●●●にしてやります、許さない。

ウォーハンマーのはまる指にいつも以上の魔力を込める最中、血相を変えたスノウ姫とジャック君、エドワードが全力で身体を抑えにかかる、止めないでください。

ギンタ君は自分達が『メル』でチェスの兵隊扱いされたことに腹を立ててます。
でも邪魔です、ギンタ君どいて下さい。そいつ●●●に出来ません。

「自分、何かカン違いしとった?」

「オレたちゃチェス倒そうとしてんだ!!!」

私を必死に制するスノウ姫とエドの会話によると、今現在、私達が相手にしているのは 盗 賊 ギルドルべリアだそうです。
それであの関西弁でべらべら喋る奴は名無しだそうです、ルべリアの頭だそうです、自ら名前ありませんと名乗ってました。面白いギャグですね???
いい機会です、拐ったのは貴方ではありませんが、連帯責任としてあの時「人身売買未遂」まで行った恨みと今日「落下させた」恨み、両方償ってもらいます。

「離してくださいジャック君にスノウ姫、エドワードも。あの妙な関西弁を扱う男には個人的な恨みがいくつか存在しているのです、いい機会ですからここで清算して貰います。」

「まあまあミツキ殿落ちついて。」

「そうっス!!、少し落ち着くっス!!」

「あの人多分悪い人じゃないよぉ!!」

上からエド、ジャック君、スノウ姫に宥められ、

「せやせや、嬢ちゃん頭に血が上りすぎてるわ。少し落ちついてぇな。」

名無しにまで止められる。
……名無し?

「何故こちら側にいるんですか?」

「自分女のコ大好きやの♪キャハ」

知りませんよそんな事、いい年した大の男がキャハじゃねーです、全然可愛くないです。

「あのぅ……ルべリアって事は…私達からARMを奪う気ですか?」

一瞬の隙ついたスノウ姫が交渉に入ると、彼女の良い人オーラと顔を間近で見たせいか名無しは動きを止め、一人だけ槍の嵐から逃れ降りてきたドロシーさんにも目を止めた。

「よー見てみりゃカワイコちゃん3人!!自分、女のコからはモノをとらん主義なんや!むしろ……エスコートしたいっ!!!」

名無しは勝手に発狂し出しました。
慌てて部下らしき盗賊が止めに入っています。
…冷静になってみると、少し前の私とスノウ姫達と大して変わらないような状況じゃないですか。情けなくなってきたので少し落ち着きましょう。

ドロシーさんは名無しの「カワイコちゃん」発言に満更でもない様子です、ちょろい。

「ずーっとチェスのアホどもとっつかまえようとしとったがさっぱりや。他んトコにおる仲間も連絡ナッシング!砦に一度戻るかい。キミらもあいつら敵思うとるんやろ?一緒に来る?」

私は貴方の事を敵思うとりますけどね、夜には気をつける事です。

「ヘンなヤツだけど平気かなスノウ?」

「ルべリアは盗賊集団。情報伝達は並じゃないよ。チェスの同行や、今の世界を見るにはいい機会かもしれないね。それにあの人、悪い人じゃなさそう!」

「え?スノウ姫それ本気で言ってます?人をあんなところから墜落させた人が?人を売り飛ばそうとした盗賊が?どこが?」

「まあまあミツキ、ナナシはオレらの事チェスだと思ってたみたいだしあいつはあの時お前をひどい目に合わせた奴じゃ無いだろ?」

ギンタ君の言うことはもっともですが、それでも人は冷静さを欠くとどうしようも無くなる時があるんです。

「とりあえずは様子見よう?ナナシさんも事情がわかれば謝ってくれるよ。それにチェスの兵隊が何をしているかわからないのにこんな所でいつまでも足を止めていちゃダメだよ」

宥めつつも少しだけ刺のあるスノウ姫の言葉で完全に我に返る。そうです、説得を受け死に物狂いで海を渡って来たのにこんな所で再び私の我が儘で周りに迷惑をかけてはいけませんね、移動前から自分勝手でした。

「すみませんでした。私の自分勝手すぎる思考はあまりにも幼稚でした。余計な行動を起こさないよう大人しくしているので、どうかこんな愚かな私を連れていってください。」

大人しくしているので
この文字の羅列を吐き出した事に少しだけ後悔するなんてこの時は思いもよりませんでした。

ギンタ君達一行の意見が纏まったので名無しがARMを発動させます。

「よしゃ。お客さん連れて帰ろ♪ディメンションARM『アンダータ』
この一帯の人間を全てルべリアの砦へ!!!」
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