遅起きの朝

「……おい、起きろ」

唸るように云った十四郎が、銀時が肩までかぶっている布団をひっぺがした。茹だるような猛暑が過ぎ、ここのところ朝晩が少し冷える。
しかし現在はとっくに日の高い時刻で、万事屋の室温は暑いくらいだった。
万年床の主は未だに眠たいらしく、十四郎に背中を向けたまま動くことをしない。

「起きろっつってんだろクソ天パ!昼にはアイツら帰ってくるって、」
「知ってるっつの。昼にはって、まだ10時過ぎじゃねーか」

へーきへーき、と気のないいらえを返して銀時は先刻ひっぺがされた布団をかぶり直す。どうやらまだ寝るつもりらしい。

「どんだけ寝汚ねェんだテメェは!」

云ってみたものの、全く反応を示さない男に苛立ちが募る。


「……チッ」

どうして俺がこんなことしてるんだ、と自問自答する。
答えは自分の為ではなく銀時の為、ひいては子供達の為だ。

マダオとはいえ、家族のような存在の男が然程体格も変わらぬ自分と同衾している姿を、多感な年頃の少年少女が見たらどう思うか。少なくとも良くは思われないだろう。火を見るよりも明らかだった。
惚れた相手が自分のせいで侮蔑の眼差しを向けられるのは、十四郎の望むところではなかった。
しかし別れてしまおうと思えないのは、ひとえに銀時のことが好きだからで。
だからこそ、こうして起こすことに躍起にもなるのだ。
さりとて銀時は身を起こそうともしない。


「……クソ」

こうなったら、自分にも考えがある。
十四郎は銀時に一切構うことをやめた。
さっさと布団から抜け出し、身仕度を整える。着物の帯を締めようとしたところで、

「……何してんの」

腕を掴まれた。
こちらを見上げてくる瞳はあからさまに不服そうだ。

「帰るんだよ」
「は? 何で」
「別にどうだっていいだろ。そんなに寝てェなら一生寝とけ」

十四郎は不機嫌な声でそう云い、銀時が掴んだ腕は乱暴に振り払われた。
そこでようやく後悔する。

──しまった、放っておきすぎた。

何に腹を立てているのか分からないが、拗ねている十四郎が可愛くてついやりすぎてしまった。


「待てって!」
「離せクソ天パ!」

暴れる身体を渾身の力で押さえる。
寝起きで力比べなんて自信がないけれどこのまま帰られてしまうよりは万倍マシだと、ぎゅう、と抱きしめて宥めてみる。
暫く後に、根負けしてくれたのか十四郎の身体から力が抜けていくのが分かった。


「……何してんだよテメェ。俺に構ってる暇があんなら寝てりゃいいだろ」
「土方ナシで安眠できる訳ねぇだろ?」
「ハ、よく言うぜ」
「拗ねんなよ」
「拗ねてねえ!」
「じゃあ何?」

聞くと、此方を睨んでいた瞳が翳りを見せた。俯いた顔からは彼が何を思っているのか窺い知ることができない。
腕を解いて土方、と呼びかけると、やがて十四郎がその重い口を開いた。


「……テメェが」
「うん」
「テメェが俺とつ、付き合ってて、ガキ共がそれ見たら何て云うかとか、考えて」
「…………」
「…お前が軽蔑とかされたら嫌だ。だから、眼鏡とチャイナにあんまり見せたくねぇんだ、その……お前が野郎と一つの布団で寝てるの、とか」
「…あのさぁ土方くん」

十四郎の独白に、銀時は溜め息交じりに口を開いた。
嬉しい反面、なんだか呆れてしまいたくもなったから。


「何それ。何でそんな自信なさげなの? 大体何だよ、『野郎』って。野郎は野郎でも土方だろ。土方と一つの布団でとか、銀さん大歓迎だからね? アイツらのことガキだって云うけどよ、云う程ガキでもねぇよ。お前と付き合ってて軽蔑とかさぁ、する訳ねぇと思うよ俺は。昨日だって大変だったからね。神楽の奴がよぉ、お前と夕飯食いたいって聞かなくて。泊まらせんのに俺がどんだけ頑張ったか分かる? 新八と一緒に云って聞かせて、何とか昼飯で妥協して貰ったんだよ?だから帰んないでくれよ。
土方くんは帰りましたーなんて云ったらアイツらに殴られるからね、俺」
「……え、と」

状況が理解できない、とはこのことだった。
何だよそれ、本当なのかそれ。
そんなこと知らなかった。知る由もなかった。ぐるぐると混乱する思考に二の句が継げない十四郎が愛おしいやら大好きやらで、銀時はたまらなく幸せな気分になる。


「……嘘じゃねぇ、のか」
「マジもマジ、大マジだっつの。…信じてくれねぇの?」
「ち、違ェ! …ただ、なんつーか………う、嬉しくて」
「っ、とおしろ…!」

ああもう、どうしてこんなに可愛いんだろう。
一度解放した愛しい身体をもう一度抱きしめて、今日は絶対離すもんかと心に誓った。



end.



離すもんかと誓ってイチャイチャしてて、でも万事屋に帰ってきた子供達に土方さんを取られて「俺蚊帳の外!?」ってなる銀さん……とかどうでしょう
愛され土方さんに万歳(*´ω`*)

Thank you for readimg!
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