空想有愛論

ガキの頃は、誰だってでっかい夢を見る。
大人になるにつれて、それは現実味のない空想になっちまうけど──『信じていればいつか叶う』。その言葉くらいは本当になってほしいと思う。
例えば車だ。
お前が仕事の時たまに乗ってる白黒のアレだって、いつかは空を飛ぶようになるかもしれない。

「なんてな。どう思う、土方?」
「知るかよ」

オイオイ、少しくれェ取り合ってくれても良くね?
そう思いながら机の上に乗っている小瓶を手に取る。確かマニキュアとかいう名前だった筈だ。それは小さいくせに妙な存在感があって、俺をしょっぱい気分にさせた。

「土方、これ彼女の?」
「いや」
「ったく、相変わらずだな」

机の隅に置いてある携帯は、ロクにストラップも付いていない。シンプルなところが、ひどくコイツらしいと思った。

「セフレが居ちゃ悪いか」
「別にんなこと言ってねェだろ」
「……向こうから寄ってくるんだ。一々追い返すのも面倒だろうが」
「ハイハイ。来る者拒まず、去る者は追わずだからね、副長さんは。……でもさ、お前が男に突っ込まれんのも好きな淫乱だって知ったら、少しは減るんじゃね?」
「バーカ。テメェみてェな野郎が増えるだけだっつの」

そう云って、土方は少し口端を吊り上げた。チロリと舌で唇を舐める様は下品な筈なのに、それでも色気を感じるなんて……反則じゃねえか、そんなの。
見てられなくなって、意識を手中のマニキュアへ向ける。大して中身のない小瓶を軽く傾けてみれば、ドロリと液体が揺れた。
普段道で会っても喧嘩くらいしかしない土方は、こうやって二人きりになるとほんの少しだけ柔らかい雰囲気になる気がする。
でも所詮虚けの仲だから、時折見せるその笑顔も偽物なんだろう。
偉そうなことを云ったところで、結局俺だってコイツにとっては只のセフレでしかない。なんて、らしくもなくセンチメンタルに浸ってみる。
ドロリ、また揺れた。

夢はガキの見るモンだ。
けど、もう三十路手前の大人が見たってバチは当たんねェだろ?


小瓶の蓋を開けると、あの独特の臭いが鼻を突いた。
中身は紅で、その色は髪から隊服、靴下まで黒が大半を占める土方にとって唯一の色彩なのかもしれない────……
その事に嫉妬なんてもうしないから、一つだけ夢を見させてほしい。


「!? テメ、なにしやがる!」
「ハハ、似合わねーなァ」
「似合ってたまるかンなモン!」

小指にベタリと塗られた毒々しいくらいの赤が、俺達らしすぎて笑えた。
お前が仕事の時たまに乗ってる白黒の車が空を飛ぶようになったら、黒は作りモンの笑顔なんざ捨てて、セフレじゃなくなった白と小指を繋ぐ。そんな夢を見ている。



空想有
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