10月10日、ヘタレ返上

あれから3週間弱。ヘタレの名は未だ返上しきれてないが、このくらいは誤差の範囲内だと思いたい。土方は仕事だし。

だからこそ、俺はこの日を心待ちにしてきた。
10月9日深夜。日付が変わるまで後30分弱。日付が変われば10月10日──俺の誕生日だ。
きっと今日は、ケーキなんか持って来てくれるに違いない。神楽と新八に恥ずかしいのを我慢して明日は昼過ぎに来てくれって言ったんだし(漏れなくニヤニヤされた)。
あの時ちゃんと伝えたつもりだし、考えてやらなくもないとか言ってたし、土方の事だからきっと来てくれる。
ガラガラと戸を開ける音と同時、心拍数も急上昇する。

「よ……万事屋」
「いらっしゃい、土方くん」
「あ、え、えと、邪魔する」

久しぶりに会ったからかギクシャクした調子で土方が草履を脱いで、ぎこちなく揃える。我慢出来なくなって丸まった背中を抱きしめた。

「なっ、なんだよ?」
「なあ、明日は何の日だっけ」
「……ま、マグロの日だろ」
「………」

マグロよろしく緊張しきりの土方くんにそんな事を言われても怒りなんて全く湧いてこない。寧ろ可愛い。何、マグロの日って。

「万事屋、」
「銀時」
「…ぎ、んとき。俺な?」
「なーに?」
「や、やっぱり出直す」
「ええええ?!」

この期に及んで想定外の事を言い出した土方くん。なんだろう、俺が浮かれてんのバレたのかな。幻滅されたのかそれで。

「な、なんでそんな事言うのかな、土方くんは?」
「……甘味」
「へ? 糖分?」
「だからっ、ケーキだよ! 昼間買えなかったんだ、仕事で、巡回もなかったから」
「え……あ、あー、うん、ケーキか」
「そうだ、だから帰る」
「いや何でそうなるの!」

確かに俺はケーキが好きだ。ホールだってイケる。でもそれとこれとは別問題だ。俺が言い募ろうとしたら土方くんが眉間に皺を寄せて、ぎゅうっと此方を睨んで俯いた。しばらくの沈黙の後、ぽつんと呟く。

「か、格好つかねぇだろうが」
「はぁー……アホですかお前は。そんなモン気にすんなっつの。前に言っただろ、『どんな甘味にも勝てねぇ』んだよ」
「……っ」

やっと思い出してくれたらしい。強張った背中が緩まったのを感じて、覚えず笑いが溢れた。



***



「つーか、本当にいいのか……?」
「だぁから気にすんなって。明日アイツらが用意してくれてるっぽいし……」

ソファで隣同士に座って、なんて事のない話をする。
神楽や新八の事を考えるとムズムズしてきて、今日も今日とてまとまらない髪をぐしゃぐしゃ掻いた。俺の反応を見た土方が口端を上げて笑んでみせる。

「そうか。愛されてんな、社長殿?」
「うっせ。…お前、風呂入ってきただろ。いー匂いがする」
「…………」
「え、と、土方くん? 黙って擦り寄るのやめてね、銀さんムラムラしちゃうから」
「すりゃいいだろ。……ヘタレ返上、してみやがれ」

耳元で色っぽく囁いてから、耳朶を甘噛みしてくる。さっきまでしょんぼりしてたとは思えない変わり身の早さに内心舌を巻いた。やっぱりコイツ恋愛慣れしてるのかな。でも今は俺の恋人なわけで。そう考えると悔しいやら誇らしいやらで複雑だ。
……でも、土方は首に懐いたっきり動こうとしない。どうしたんだろう。
土方、と呼びかけた。ガバリと起き上がって勢いよく離れる。耳まで真っ赤にして、

「わ、忘れろ」
「無理。なに企んでンの?」
「企んでなんか、ねえ。……ただ」

──総悟が言ったんだ。膝の上にでも乗ってこうしてやれば、百戦錬磨の旦那もイチコロだって。
気まずげにそう言った土方が、ソファで小さくなってるように見えた。

「膝の上に乗って、ねえ。さっきの乗ってなくね?」
「そ、そんな恥知らずな真似できるかッ!」
「ふぅん。あと、別に俺、百戦錬磨でもないし」
「……そ、そうなのか」
「そうだよ。お前俺にどんなイメージ抱いてんだ。つーかそれより、俺としては」
「ああ……?」
「沖田クンにやらしいコト教えられちゃってる方が問題なわけだ」

土方が経験豊富なわけではないらしい。それは良かったし嬉しいけど、ドS皇子に入れ知恵されてるなんてのは頂けない。

「そんなもん、じっくりネットリ俺が教えてやるよ。ハイ、まずは膝に乗ります」
「ハイじゃねえ! 近ぇよっ離せッ!」
「暴れんなよ。総一郎クンに噛まれたんだろうが耳たぶ」
「そんなん、ただの悪ふざけだろうが……!」
「却下ー。もうそれアウトだから。いいかァ? ただ噛むだけじゃ駄目だ。優しーく舐めてやんだよ、こうやってな……」
「ふっ……んん」

舌先の感覚が堪らないのか膝の上で身を捩る土方くんをかっちり抱きしめて、耳殻の溝をなぞってやる。

「なあ……耳ン中は?」
「あ……されて、ねえよ、アホ」
「そうか。…ん」
「ひっ、やめ……」

止めるのは聞こえないフリで、耳の穴に舌を滑り込ませる。
わざとピチャピチャやると、間近で聞こえる音とくすぐったさで土方の腕から力が抜けた。
膝の上で身を任せてくれる土方が可愛い。息を吹きかけると、濡れたところが感じるらしく子犬のような声を漏らした。

「敏感だな。乳首も感じてたし」
「クソ天パっ……」

文句を言う土方の着流しが衣擦れして、そのピンク色が顔を覗かせている。
見るからにスベスベしてそうな肌に我慢出来なくなって、はだけた合わせに手を滑り込ませた。人差し指に引っかかった乳首をピンピン撫で回すと土方があんあん悶える。今夜はようやくヘタレ返上出来そうだ。
……やっぱり、ここに居る土方が俺にとって最高のプレゼントだと思う。今はなんか恥ずかしいから言えないけど、明日の朝一番なら言える気がする。すっげぇ好きだよ、十四郎。そんなミラクルコンボも夢じゃない。



end.


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