9月某日
最近映画館に行ってない。
「おい、早く食わねーと溶けるぞ」
「あー…うん」
でもあれから何度か土方とファミレスに来るようになった。このやり取りもその度に繰り返されているもので。
土方は知らないんだろうけど、俺はわざとゆっくり食べてるんだ。土方と離れがたくて、帰るのを遅くしたくて、それで。
「テメェの腹は読めてんだよ」
「……え?」
「前にも言っただろ」
土方は唐突にそう言って席を立つと、ドリンクバーからコーヒーのお代わりを淹れて戻ってきた。
慣れた手つきで煙草に火を点ける動作に、もしかして、と不格好な期待がむくむく膨らんでくる。
「……多串くんさ。それ、いつ吸い終わんの?」
「土方だっつの。……さぁな、いつがいいんだ?」
「……明日の朝まで?」
「馬ァ鹿、そんなに粘ってられるかよ」
「…………」
俺が黙ったら土方もそれきり黙ってしまって、くゆる紫煙ばかりをお互い睨むように見つめていた。チクショウ、言いてぇことも言えねぇヘタレ野郎め。心の中で、自分で自分に文句を垂れた。
「なあ、」
「……あ?」
やっとようやく言う決心がついたから呼びかけると、土方の低い声が返ってきた。
大丈夫だ、怒ってるわけじゃないって分かってる。
「俺ン家で飲まねぇか?」
言ったら、土方は驚いた顔をした後、昼飯に誘ったあの日と同じ表情をした。あの時は一瞬しか見えなかったけど今日は全部見られた。と思ったらすぐに下を向かれて、そんなとこも好きだなと思う。
「……い、行ってやっても、いい」
キャラメルポップコーンくらい甘ぇ考えかもしんないけど、応えた時に少し泳いだ目線も、煙草をきゅっと挟み直した唇も、全部俺のモンにできたらいいのに。
end.
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