8月1日と第2木曜 last

もうアイツとは会えなくなるのか、なんて柄にもなく不安に駆られたりした昨日の俺。でもそれは杞憂に終わった。
たった今、俺の目の前には巡回中の土方がいる。相方にサボられたのか一人で歩いてて……チャンスは今しかない。

「…ひ、ひじかた!」
「? …ああ、テメェか。どうした」

俺が気まずいことなんて、土方は全然気づいてないみたいだった。
ただ話しかけられたから応えたっていうだけで、こないだの、先々月の出来事なんかまるでなかったことにされているみたいだ。
少し腹が立つけど、その方が救われる。

「どうした、じゃねーよ。先月は、その…」

どもった声をなんとか持ち直そうとしたものの、うまくいかない。それでも俺の言いたいことを察してくれたのか、土方は俺が言い終わるよりも先に口を開く。

「近藤さんの付き合いで飲みに行ったんだよ。テメェも知ってるだろ、すまいる」
「あー……そう」

考えてみれば当たり前だ。
土方が、映画館に来るよりゴリラを優先させる事くらい。
じゃあ何で俺は、折角土方に会えたのに面白くない気分になってるんだろう。

「トーシー! 置いてくなんて酷いぞ? なんだ、万事屋と一緒なのか。良かったなぁ、お前気にしてたから」
「こ、近藤さん!」
「照れるなよー。万事屋に怒られたんなら俺も一緒に謝ってやるから」
「いい、いいから! あの、先に歩いててくれ、な?」
「えぇぇー?」

広い背中をぐいぐい押しやって、土方が戻って来た。苦虫でも噛んだみたいなツラだ。

「悪ィ。あの人、変な勘違いしてんだよ」
「別に間違っちゃいねぇよ。俺怒ってるし」
「……? 何でだよ」
「さァな。自分でもよく分かんねーんだけど……なあ、次の非番っていつ?」
「………。第2木曜だ」
「第2木曜ね。りょーかい」
「待て、それがどうかしたのか?」
「どうもこうも、お前の非番予約するんだよ」
「は………、」

ぐっと言葉に詰まったのは土方だけで、俺からしてみたら不思議でも何でもない理屈だった。
ここ最近の俺は、土方が他の奴と一緒に居るのが面白くない。だったら、俺が一緒に居れば万事解決するわけだ。
そんな事を知るわけない土方は、驚きの所為か口を半開きにしている。
何だか可笑しくて楽しくてクスクス笑いが漏れて、そんな俺を見た土方にぐいぐい顔面を押しやられた。ニヤニヤしてんなアホ、くそ、天パ。

「ふごっ、オイ、天パ馬鹿にすんなよ……っ」
「してねーよ、人タラシな白髪天パなら馬鹿にしたけどな」
「白髪じゃねーし! 銀髪だっつの、よく見やがれコノヤロー」
「そ、それ以上近寄んなっ、暑ィんだよ!」


***


約束した第2木曜。映画館は休みだった。
二人して『本日休館』の張り紙の前で立ち尽くしてから、俺は勇気を出して「昼飯でも食いにいくか」と土方を誘ってみる。
「仕方ねぇな」と素っ気ない返事をして先に歩き出した土方の耳たぶが真っ赤になってるのを見て、悪くないと思った。
……いや、本当は『悪くない』どころじゃない。とっくに気づいてるんだ。そんな口上意味がないくらいに、土方を意識しまくってること。

──土方に会うまでの2週間弱、俺は俺が何故そうなっているのか考えた。
今までは何だか触れたくないような気がしてあまり考えなかったけど、今回は違う。暇さえあればアイツを思い出す事にした。
──まあ、2週間で万事屋が繁盛するわけでもない。つまり暇だ。その暇を使うわけだから、色々な事を思い出した。
毎回毎回、スクリーンから少し離れた列の、一番右端に座ってる土方。
自分から話しかけてくれた日の事。俺の隣で涙目になってて、
そうそう、土方はポップコーンを食べないんだ。でもどういうわけかキャラメルポップコーンを奢ってくれたりもしたっけ。
見かけなくなって焦ったのは先月だ。
それと何より、ふにっとしたやぁらかい土方の、

「おい、早く食わねーと溶けるぞ」
「ああああ!」

──危ねぇ危ねぇ、おかしくなりそうだ色々と。
とにかくそれからなんだ。スクリーンど真ん中の席に座ってつまらない映画をだらだら眺めるだけだった日が、特別な日に変わったのは。
今の俺は、ハンバーグ食べてる土方の向かいでパフェをつついている。

「つーか昼飯にパフェってどうなんだ。甘ったるくねぇのか?」
「この甘さが最高なんだよ。あ、そのハンバーグ一口くんね?」
「バカ、それ俺の箸だろうが!」

だらだらと他愛もない話をする、この時間が一番好きだ。



end.


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