これの続き



頭が酷く痛む。心配する補助監督の声がどうにも煩わしくて、「大丈夫です」の一点張りで振り切ってしまった。去り際の傷ついたような顔がズキズキと痛む脳裏に過ぎり、明日高専に顔を出したら謝罪しなければなと思う。
自宅の前に立ち、玄関のドアを開けた。靴を脱ごうとしたがふらついて、壁にもたれたままずるずると膝が折れる。「七海さん!!」遠くで彼女の声が聞こえたが、何を言っているのかも分からないまま、七海の意識はそこで途絶えた。



目を覚ますと高専の医務室だった。白い天井に、ふと人の影が落ちて、何度かまばたきをすると顔を覗き込んでいたのが家入だと分かる。

「軽い脳震盪だよ」

しばらくここで休んでいくといい。彼女もね。
家入の言葉に頷くより早く、ぎゅっと右手を握られる感触に七海は驚いた。視線を下ろせば、顔を伏せて自分の手を強く握る彼女の姿がある。七海はようやく、呪骸である彼女が呪術高専内とはいえ無関係な人間と接触したことを理解して、思わず「家から出るなとあれほど……」と説教しかけたところで口をつぐんだ。顔を上げた彼女は泣いていた。いや、人間ではない彼女の目から涙が溢れることはなかったが、涙がこぼれていないのが不思議なくらい……彼女は顔をくしゃくしゃにして、見えない声で泣きじゃくっていた。

「先生が死ぬのは私のせいなんです」

私がもっと早く誰かを呼べばよかった。目を開けなくなってから初めて血の気が引いて、気が動転して、絶対に外の人間とは関わらないという約束を破って先生がたまに掛けていた電話番号に電話をかけた。先生が死んじゃう、助けてください、誰でもいいから早く来て。私は良くない存在なのだろうことは分かっていた。外の人間と関わったらきっと先生と離ればなれにされてしまうだろうことも、何となく分かっていて、それが嫌で、いつまでも先生のお世話をしていられればそれでいいと自分のことだけを考えて、私は先生を殺しかけた。
そこまで言いきった彼女は、蚊の鳴くような声で「ごめんなさい」と言ってうなだれた。突然倒れた自分に、先生の姿を重ねたのだろう。憔悴しきった彼女の頭を、七海はポンとやさしく撫でる。「私を助けたのは、アナタです」あのまま部屋で倒れていたら、もしかしたら私は今頃死んでいたかもしれない。目を覚ますことができたとしても後遺症が残っていたかもしれない。

「過去に何があったとしても、私を救ってくれたのは他でもないアナタです。ありがとう」

七海の言葉に彼女は目を丸くした。それからまたくしゃりと顔を歪めて、七海の腕に顔を埋める。「……ずいぶん情が湧いているじゃないか」二人の姿を遠目に見ていた家入が、ぽつりとそんなことを呟いて小さく溜息を吐いた。


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