「何を先程から笑うておる」
「へっ。人の顔色窺う暇があるたあ、随分余裕だな」
互いに剣戟を交わしながら、その合間に元就が言った。
それを元親は機嫌よく返す。
元就が口を開いたことで剣戟が止み、お互いに離れて間合いを取った。
元就はいつものように輪刀を斜めに掛けて構え、その仏頂面に少しばかり不機嫌さをのせている。
それに対し元親は碇槍を肩に乗せ、妙に嬉しそうに笑っていた。
「その薄ら笑いを止めよ。気持ち悪うてならんわ」
「おいおい、酷い言いようだな」
「見たままを言うたまでよ。…何が可笑しい」
「いや、お前の奥の言う通りだと思ってよ」
「…何故そこで名前の名が出てくる」
急に上がった自身の正室の名に、元就は怪訝な顔をした。
「お前が真田にやられてよ、奥をうちで預かってたんだ」
「知っておる。頼みもしておらんのに、世話を焼いておったようだな」
「まあそう言うな。俺だって奥に会うまでは、世話を焼こうなんざ思わなかったさ」
その言葉を聞き、元就は目を据える。
そして元親はその元就から目線を外し、遠くの空を見遣った。
[*前] | [次#]