Rei Furuya



これの続き


深夜0時を回ったころ、テーブルの上には8本の空き缶が並べられていた。ソファの隣に腰をかける降谷は、まだこれからだと言わんばかりにグラスを傾けていた。先に言っておくと、私と降谷の家は徒歩では30分以上かかるほど離れている。そして、この時間に泥水している以上は車には乗れない。となると、降谷の家に泊まることは確定事項のようだ。


「全然酒が進んでないじゃないか。」
「そんなことないですよ、降谷さんほどではないけど、次4本目ですし。」
「そんなに飲んでたかな…。」


そう言うと降谷は棚から栓の空いていない日本酒とグラスを取り出してきた。まだ飲むのか。顔色を窺えば、ほんのりと赤くなっている程度で目はしっかりと開かれていて、酒に飲まれている様子はない。それに降谷の性格を考えれば、無理をして飲むようなことはないだろう。4本目の缶に手を伸ばすと、日本酒の注がれたグラスを差し出された。


「降谷さん、私甘いお酒しか飲めないんですが飲めますか…。」
「一度飲んでみろ、もし口に合わなければもらうから。」


先程まで飲んでいたのはカクテルや梅酒で、いまだ辛口のものは飲んだことがなかった。ビールもそんなに好きではない。恐る恐る口を近づけると林檎の香りがした。一口含めば、甘さが広がった。


「…おいしいです。」
「じゃあ1本開けれるな。」
「えぇ、さすがにこれ1本付き合ったら潰れますって。」


日本酒の度数は空いたカクテル缶よりも高く、飲んだ一口でさえクラッと来たほどだ。いくら降谷のほうが飲むといっても、途中で酔って眠ってしまうかもしれない。多忙な降谷に酔って介抱させるなんて真似は私には出来ない。


「この1杯で最後にするので、あとは水を飲んで付き合います。」
「それじゃわざわざ宅飲みにした意味がないじゃないか。」
「十分飲んでますよ?それに迷惑はかけられません。明日も早いんでしょう?」
「明日は昼からポアロのシフトが入ってるだけ。水野も午後からだからまだ飲めるよ。」
「なんで私の勤務時間把握してるんですかねぇ…。」


飲め飲めと煽る降谷をかわせば、グラスを持つ私の手を包み込むように触ってくる。そのまま力を込めると強制的に口までグラスを運ぼうとしてきた。とってもいい笑顔で。


「えっちょっとなにするんで…!?」
「飲め。」


鍛えているといっても男女の力の差は大きい。抵抗もむなしく口につけたグラスを傾けてきた。傾け方が雑で口の端から酒はこぼれあごへと伝う。そんなことも気にしていられないほど、のどが熱い。流れ込む酒は勢いを増すばかりで降谷の肩を叩くと半分ほど減ったところでようやくやめてくれた。口の端をシャツの袖で拭うとしっとりと濡れる。


「ごほっ…殺す気ですか!?」
「あーあ、もったいない…。」

もったいない飲ませ方をしたのは降谷だというのに私が悪いような言い方だ。胸のあたりも濡れており、多少なりとも拭いた方がいいと判断し、ハンカチを取り出そうとソファから立ち上がる。立ち上がった瞬間、視界がゆがんだ。足がもつれ、運悪くテーブルのほうへ体が倒れていく。頭では危ないと思っていても体が動かない。やばい、ぶつかる。そう思った瞬間左腕を強く引っ張られた。そのまま降谷の膝の上座るような形で落ち着き、つかまれた腕から手は離され、腰に腕が回る。


「急に立ったら危ないだろう。」
「降谷さんが、悪いんですよ、あんなに急に飲ませるから。」
「はは、悪い悪い。」


もう、笑ってないで腕離してくれないかな。回された腕も、自分の腰も熱い。これは酔ってるせいだと回らない頭に言い聞かせた。


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