10/31 Sat 15:25:12


(冨岡義勇と見合いする@※現パロ)

休日の昼下がりに寝転がって惰眠を弄っている時間がこの上なく幸せだ。仕事を終えて帰宅し、倒れるように金曜の夜に眠っても、土曜は無限に眠気が襲ってくる。折角の休日を家で過ごすのは勿体ない、なんて発想は社会人二年目にして早くも消えてしまった。休みはごろごろするためにある。眠りに落ちる前のうつらうつらとした状態で大きな欠伸をしたところで、同じくリビングにいた母が声を上げて立ち上がるものだから、すっかり意識は現実に引き戻されてしまった。

「もう少しで寝れるところだったのに…。」

頬を少し膨らませてぶつくさ呟けば、そんなことなど気にも留めず母は大きな足音を立てながらクローゼットに向かうと、勢いよく開いて忙しなく何かを探している。ガサゴソと耳障りな音が響くからこれ以上寝続けられそうにもない。こんなことなら自室で寝ればよかったと後悔した。諦めて身体を起こし、天井に向かって手をつき上げ大きく伸びをしたところで漸くお目当ての物を見つけたのか、母の手には紙袋が握られていた。

「そんなに急いで何を探してたの。」
「お見合い写真よ。」
「…誰の?」
「あんたしかいないじゃない。」

お見合い写真が来る人間なんて子供が一人しかいない我が家には私ぐらいなのは分かってはいたが、信じられずわざわざ聞いてしまった。そんな私の様子を呆れたように母は見ながら、紙袋から取り出した二つ折りの和紙で出来た台紙を手渡した。

「ほら、とりあえず開いてみなさいよ。」

にやにや笑う母を睨みつつも、少しだけテンションが上がってしまっているのも事実だ。私に結婚を申し込みたいなんてもの好きな人もいるんだという純粋な興味がある。それを悟られないよう、恐る恐る台紙を開いた。

「………どういうこと?」
「すごくよく撮れてるでしょう。」
「いや、確かによく撮れているけども。」

ツッコミを入れずにはいられなかったのは、写真には黒のスーツに身を包み、臙脂色のネクタイを締めて、きゅっと口を横に結んだ幼馴染の冨岡義勇の姿が映っていたからだ。家は隣で、生まれる時期もほぼ同時だったことから、私達が産まれる前から家族ぐるみで仲が良く、今でも数か月に一度はどちらかの家でホームパーティーをしたりする。私にとって冨岡家はもう一つの家族みたいなものだ。

「蔦子ちゃんが月曜日に持って来てね、あんたに渡してほしいって言うから。すっかり忘れてて今出したんだけどね。」
「そこはまあどうでもいいんだけど…。何で私に?」
「義勇くんがあんたと結婚したいからじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。家族みたいなもんよ?今更恋愛感情が芽生えるわけ…。」
「芽生えないとは言いきれないわよ。それに義勇くんなら安心だわ、しっかりしてそうだし、イケメンだし。」

前向きで話を進める気満々の母に、私はただただ写真を見つめて困惑するばかりであった。
Giyu Tomioka






05/27 Wed 23:31:41


(冨岡と偶然会って食事するB)

―――ちゃぽん。
そんな可愛らしい音ではなかった気もするが、気が付けば私のどんぶりの中には無くなったはずの天麩羅が音を立てて現れた。目をぱちくりさせながら目の前の光景を疑う。この世は御伽噺とは違い、願えば何でも叶うほど都合の良く出来ていない。食べたはずのものが復活するなんてことはまずありえない。例えば、正面に座る冨岡の挟んだ箸から天麩羅が一つ消えていたとしたら、話はまた別である。

「食べたかったのだろう?」

さも当然かのように言ってのけた冨岡は続けざまに食べろと私を急かす。嬉しさ半分申し訳なさ半分。いや、申し訳なさが上回っている。食い入るように見られて視線に居たたまれなくなったから渋々くれたのだろう。同期とはいえ、柱に譲らせるなど言語道断だ。しかし、返そうにも折角の美味しい天麩羅を店主のいる手前行ったり来たりさせるのは失礼でとても出来ない。

「食べないのか?」
「……申し訳なくて。」
「俺が勝手にお前の器に入れた。それをお前が食べるのに何の問題がある。」
「だってこれは冨岡さんの、」

言いかけたところで勢いよく麺を啜る音に阻まれた。こんな会話の最中に食べ始めなくてもと言いたくなったが、天然と噂の水柱様には何も言うまい。これ以上喋る気はありませんとの意思表示とも受け取れるし、食い下がっても素直に返されてはくれないだろうことは容易く予想できる。ありがたく頂戴するのが関の山か。出汁を吸ってつやつやと輝く天麩羅を見つめながら心の中でお礼を言い、今度は少しずつ味わいながら口に入れた。

そして食べ終わって勘定をするまで互いに口は利かなかった。店を出て、冨岡の行き先を足の向く方向で確認してから呼び止める。

「ご馳走様でした。生きて帰ってきてくださいね。」
「約束はできない。」
「…そう言われるのではないかと思ってました。でも、生きて帰ってきて貰わないと困るんです。」

次は私が貴方に好物を譲る番だから。任務が終わったらまたこの店の前で会いましょう。だから約束は絶対ですよ、よろしくお願いしますね、冨岡さん。
Giyu Tomioka






05/20 Wed 22:26:14


(冨岡と偶然会って食事するA)

「うまいか。」
「それはとても。駄目ですよ、あげませんよ?」

冨岡が目的もなく話しかけてくるとは思わず、咄嗟に器を抑えて守る体制を取った。まだ半分も食べていない天麩羅うどんを明け渡してあげられるほど私は優しくない。元々好物な上に、この店の味付けはかなり好みなのだ。横取りされてはたまらないと口の中に最後の一尾の海老の天麩羅を詰め込んで栗鼠のように頬を膨らます。時間をかけずに素早く咀嚼し、水で一気に流し込んだ。

「聞いただけだ。奪うつもりはない。」
「………それなら早く言ってくださいよ。味わって食べたかったのに…。」
「勘違いしたのはお前だろう。」

ぴしゃりと言い放った冨岡の言論は至極真っ当である。勝手に取られると早とちりして冨岡を食いしん坊に仕立て上げたのは私だ。しかし、しかしだ。嘆いても天麩羅は戻ってこない。かけうどんと化してしまったどんぶりの中に葱が悲しげに漂っている。反論できる材料もなく言い淀んでいると、冨岡の元に私と同じどんぶりが運ばれてきた。

「天麩羅、うどん…?」

中身も全く同じ、大きな海老の天麩羅が二つ乗った天麩羅うどんが冨岡の前にはあった。嬉しそうに箸を取って手を合わせる冨岡とどんぶりとで視線を行ったり来たりさせてもどんぶりの中身が変わることはない。鮭大根ばかり食べていると聞いたことがあったから、当然鮭大根が運ばれてくるものだとばかり思っていた。

「鮭大根ではないんですか?」
「…お前の好物を知りたかったから、お前と同じものをと店主に頼んだ。」
「なるほど。だから何を頼んだのかは私のが届くまで"分からなかった"んですね。」

こくりと頷くと冨岡は視線をどんぶりへと落とし、箸で揚げたての天麩羅を挟む。まだ汁に浸かりきっていないサクサクの衣が恨めしくて、自分のうどんが伸びるのを気に留めず見入ってしまう。持ち上げられた瞬間には、思わず「ああっ」と声が出てしまいそうだった。欲しい、食べたい、羨ましい。恐らく私の顔にはそんな文字が張り付いているだろう。そして冨岡の小さな口の中に運ばれるのかと思った天麩羅は、思わぬところに運び込まれることとなる。
Giyu Tomioka






05/12 Tue 16:15:31


(冨岡と偶然会って食事する@)

任務のない平和な昼下がり、立ち寄った街の一角から香る出汁の匂いにつられて暖簾をくぐる。老夫婦が営む小さな食事処は常連であろう客がちらほらと席を埋めている。お好きなところへと促されて隅の椅子へと掛けた。座るなりじろじろと視線が刺さる。羽織をかけているとはいえ、洋装である隊服が物珍しいのだろう。海外から徐々に食べ物や衣服などが渡来していているが、それほど国民に浸透していない。都会なら兎も角、田舎町であればなおさらだ。天麩羅うどんを注文し、視線にいたたまれなくなって窓の外に目を向けた。

母親に手を引かれて歩く子供、寄り添って歩く老夫婦、忙しそうに足を動かす青年、目指す先に居る着飾った少女、誰も彼も幸せそうで鬼とは無縁の世界を生きているのだと思い知らされる。斬った鬼の数だけ、振り下ろした刀の数だけ世界から遠のいていくというのに。汚れてしまった手では人並みの幸せなど掴めしない。まあ、今となっては鬼を知らぬ生活など想像もできないのだけれど。目の前に広がる幸福に満ちた世界に一人、烏を肩に乗せて歩く異質な存在がいれば目立つものだ。

冨岡さん…?なんでこんな場所に?窓越しとはいえじろじろと見すぎてしまったのが悪かった。視線に気づいた冨岡は私を捉えると足の向きを変えてずんずんとこちらまで向かってくる。これでまた静かな食事が遠のいた。

「ここ、いいか。」
「…どうぞ。」

正確に言えば冨岡は静かだ。食事中に問わず会話はあまり好まないようだし、そもそも必要以上に人を近づけない雰囲気を放っている。近くに寄られても害はないのだけれど、座るなり一時も他に目をやることもなく見つめられたら居心地が悪い。冨岡の目は口程に物を言う。

「……あまりこちらを見ないで欲しいのですが。」
「正面に座っているのに無理を言うな。」
「窓の外の方を眺めている方がよっぽど面白いですよ。」
「そんなことはない。」

話が壊滅的に通じない。いや、通じないというよりかは応じてくれないと表現したほうが正しいか。控えて欲しいと言った事柄に対して、冨岡は必ずと言っていいほど断る。そしてそれは大抵二人でいる時しか発生しない。

「そういえば注文はしたんですか?」
「座る前に声をかけた。」
「ああ…なるほど。何を注文したんです?」
「分からない。」

自分で注文しておいて分からないなんてことはないだろうと思いつつも、おまちどおさまと運ばれてきた天麩羅うどんを見て会話を止めて箸を取った。つやつやと輝く出汁にサクサクな天麩羅は食欲をそそり、思わず口元が緩む。その様子を冨岡が眉を下げて見ていたことなど私は知る由もなかった。
Giyu Tomioka






05/06 Wed 23:23:54


(※情事後の話)

柔らかな布団に沈んだ身体は寝返り一つ打つのさえ億劫になるぐらい気怠い。熱冷めやらぬまま隣で涼しげに目を細める冨岡を見やれば腰に回る腕に力が入った。強い力によって寄せられた身体は磁石のように冨岡にくっつき、厚い胸板に鼻先が押し付けられた。着崩れた寝間着から覗く白い肌に残る汗の匂いは先程までの行為を色濃く思い出させる。

「義勇さん、これでは寝付けません。」

再び昇ってこようとする熱を抑え込むためにそっと離れようとするも、筋肉のついたしなやかな腕からは逃れられない。逃げようとすれば逃げようとするほど強く繋がりを求められる。

「先程まではお前の方がずっと強く抱きしめてきただろう。少しぐらい許せ。」
「では少しだけ、ですよ。私が目を閉じたら緩めてくださいね。」
「…善処する。」
「善処ではなく約束です。」

きっと冨岡は離す気などない。それが分かった上で約束などと子供じみた言葉をわざと口にした。冨岡の綺麗な瞳の奥に隠された執着心を燃え上がらせるにはうってつけの方法だと知っていたから。
"反発"は一つの燃焼材料だ。自分の思い通りにならなければなるように仕向けたくなる心理を逆手に取り、番を守る雄の本能を擽るだけのこと。初めは吹けば消えてしまいそうな小さな炎だったはずなのに、いつの間にか私の身体を燃やし尽くしてしまえるほどの業火となった。重いだなんて微塵も感じたことはない。ぶつけられるたび満たされていく。こんな形でしか愛を測れない私をどうか許してほしい。できるならばもっと綺麗な心で愛を育みたかった、傍に居たかった。

「愛しています、ずっとずっといつまでも。」
「ああ、」

嗚呼としか言ってくれなくても、その腕がしっかりと愛を証明してくれているから私は幸せだ。温もりに包まれたまま眠れば日が昇るまで夜に怯えず眠れるだろう。落ちていく瞼に抗わずゆっくりと意識を手放していく。

「………綺麗だよ、お前は。」
Giyu Tomioka




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