――ドンドン、ガチャッ!


「悪いね、少しお邪魔するよ。」
「あ? 誰だ、こんな忙しい時に――、って?! ピ、魚座様っ?!」
「何っ?! 魚座様だとっ?!」


宝瓶宮裏の作業小屋。
私にしては少し乱暴気味にバタンとドアを開け、ズカズカと中へ入っていくと、その狭い小屋の中にざわめきが走った。
何故、こんなところに黄金聖闘士が?
その場の作業員全員が、興味津々の眼差しを遠巻きにしながら向けてくる。
だが、そんな視線など、私にとっては痛くも痒くもない。


「彫刻師の頭と話がしたいんだけど?」
「か、頭ですか……?」


丁度、目の前にいた男に、そう話し掛けると、男は慌てて背後を振り返る。
その視線の先、小屋の最奥で作業している男が、どうやら頭らしかった。


「アレックス?」


念のために確認を。
そう思って、私の直ぐ後ろから同行していたアレックスを振り返る。
すると、彼女はゆっくりと頷いて、そして、自分の両手を胸の前で握り締めた。
仇である男を前に、再び込み上げてきたのであろう怒りと悔しさを、その手を握り締める事で必死に抑えている、そんな様子で。


視線を戻すと、手を止め道具を置いた頭が、ゆっくりとこちらへ近付いてきていた。
嫌な感じの男だ。
まだ声も聞いていない、顔を見ただけなのに、そう思った自分がいた。
頭になった程の男だ、それ相応の実力はあるのだろうが、如何せん、人の上に立つ者の品格が全く感じられない。


「黄金聖闘士様が、こんなところに何の用です?」
「キミに話があってね。」
「ほう? 私のような下々の者に、魚座様から直々に話があると? しかも、女連れで。」


この物言い、私が何をしに来たのか見当が付いているようだな。
私ではなく、背後のアレックスに向けられた忌々しそうな視線からも、それが分かる。
相手が黄金聖闘士の私でなかったら、舌打ちの一つは確実にしていただろう。
物腰と言葉は丁寧だが、節々に見え隠れする傲慢な態度。
慇懃無礼とは、まさにこういう事だという良い例だ。


「私が何を話しに来たのかくらいは、分かっているのだろう?」
「もしや、そこの女官の父親の事ですか? それなら何も話せる事はありませんよ。『アレ』は事故なんですから。」
「っ!!」


背後のアレックスが、ハッと大きく息を飲んだのが分かった。
相手が黄金聖闘士と言えど、素直に真実を話す気など毛頭ないらしい、この男は。
それはそうだろう。
そんな男ならば、七年もの間、事件を隠し通す事など出来なかったろうから。


仕方ないな。
やはり『あの手』を使うしかないだろう……。





- 15/19 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -