巨蟹宮から急ぎ十二宮の階段を駆け上がって宝瓶宮まで戻って来ると、既にそこで私を待っていたアレックスは、遠い目をして空を眺めていた。


「すまない、待たせてしまったかな?」
「いえ、ホンの数分でしたから。それに……。」
「それに?」
「こんな風にのんびりと空を眺めるのは久し振りで、思わず見入ってしまいました。雲が……、綺麗だな、と。」


まだ、ぎこちなさの残る微笑を浮かべたアレックスの視線の先を追って空を見上げると、澄み渡った痛い程の青空に、ゆっくりと流れていく雲の塊がプカプカと浮いている様が、何だかとても平和的に見えた。
地上に生きている私達の抱える悩みなど、あの雲は知らずにのんびりと空の海を泳いでいる。
あんなにも長閑(ノドカ)に平和に生きていけたなら、どんなにか良いのに……。


「さて、行こうか?」
「……え?」
「この宮の裏手にいるんだろう? 彼等が。」
「っ?!」


目を見開いて私を見返すアレックスは、言葉にならない声を喉奥に詰まらせて硬直した。
先程まで、ぎこちなくはあれど、その口元に浮かべていた微笑さえも、同時にスッと消える。


「行くって……、彼等に直接、会うつもりなのですか?」
「そうだけど、それが?」
「そのような事、無駄ですわ。先程も言いましたように、あの事件に関しては何も証拠がないのです。例えアフロディーテ様が問い詰めたとしても、シラを切り通すに違いありません。」
「そう、そうだろうね……。」


七年もの間、誰にも知られずにいたのだ。
彼等にとっては隠し通す事など簡単なのだろう。
証拠など何処にもない、殺人だと証明するものも、証言する人もいない。
それが彼等にとって『絶対に誰にもバレない。』という自信になっているのだ。


ならば――。


「証拠も何もないと言うのなら、彼等自身の口から吐かせれば良いのさ。」
「まさか、そんな事が出来るとでも?」


半信半疑の表情で私を見つめるアレックス。
そんな彼女に小さく微笑んで見せると、直ぐに踵を返して背を向け、私は宝瓶宮裏に設置されている修復作業員達の小屋へと足早に向かった。





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