「私は……。」


暫くの沈黙の後、私は漸く唇を開いた。
沙織さんがどんな期待を持って私に接していようとも、私は私の思う道を進む。
亡き姉さんのためにも、私はそうすると決めて、ココへやって来たのだから。


「私は、ただ本当の事を、実際に何が起きたのか、事実をありのままに知りたいんです。姉とは、もう十三年も会っていませんが、いえ、だからこそ、余計に知りたいんです。姉がどのような人生を送り、どのような最後を迎えたのかを。」


私は真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに沙織さんの大きな瞳を見つめた。
何一つ計算もない、駆け引きもない。
もう二十歳を越えていながら、目の前の少女よりもずっと単純で、ただひたすら前に進むことしか出来ない自分。
でも、それで良いと思う。
そうする事でしか、私の思い、決意の深さは伝わらない。
そう思ったから。


「でしたら、聖域に行きませんか?」
「え……?」
「私には、これ以上の追求は出来ません。でも、浅海さんなら……。」
「私なら?」


沙織さんの独特な淡い色をした瞳が、大きく揺れた。
それは躊躇いだろう。
私に頼んで良いものか、否か?
言葉にしてもなお、まだ迷い、躊躇いが彼女を支配している。


だが……。


「浅海さんなら、誰に遠慮をする必要もなく、好きなだけ調べることも可能でしょう。貴女は浅香さんの肉親ですし、彼女の死について色々と調べ回っていても、おかしくはないでしょうから。ただ……。」
「何か、困る事でもあるのですか?」
「困る事と言うか、浅海さんの身に危険が及ぶのではないかと、それが心配なのです。もし仮に、浅香さんの死が他殺であった場合、その事実を知られたくない人物が必ずいる筈です。事件を隠し、偽りの報告を捏造した者が。その人物の前に、事件を調べようと思う者が現れたら、どうなるか……。」


これがサスペンスドラマなら、必ず命を狙われる。
或いは、次の犠牲者に。
そう考えると、身体が自分の意思を越えて、勝手にブルッと震えた。


「危険度は極めて高いのです。一般人の浅海さんを、迂闊に巻き込むには、あまりにも……。」


瞳を曇らせ、沙織さんは視線を下へと落とした。
限りなく危険な状況。
彼女が躊躇っていたのは、そのためだったのかと思う。


それでも……。


それでも、沙織さんは私に期待しているのだろう。
危険と分かっていて、私にギリシャ行きを勧めた。
彼女ほど聡明な人物なら、可能性があっても、そう簡単には口に出したりしない。
だが、それを敢えて私に伝えた。
迷いながらでも、口に出して伝えた。
それは私にしか出来ない事だと分かっているからで。
そして、私を危険の中に放り込んだとしても、それでも真相が知りたいと、彼女も切に願っているからだ。


ならば、躊躇う事は、何一つないだろう。
私だって知りたい。
姉さんの死の真実を、私だって知りたいと願っている。
怖くないと言えば嘘になるが、それよりも今は知りたい気持ちの方が大きいのだ。


「行きます、行かせて下さい。私をギリシャに。姉さんが過ごした、その場所に。」
「浅海さん……。」


目が合った。
言葉にして伝えなくとも、その視線、お互いの思いを籠めたその視線で、全ては伝わっていた。
沙織さんの強い思いも、私の決死の覚悟も。
そして、それ以上は何も躊躇う事などなかった。


→第2話へ続く


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