暫く、言葉も無く上を見つめていた私達。
その視界の先には、もうシュラさんの姿はなかったが、それでも、そこから動く事が出来なかった。


「あいつ……、シャカと同じような事を言っていたな。」


先に口を開いたのは、アイオリアだった。
横に立つ彼を見上げると、グッと眉間に皺を寄せて、まだ階段の上を見ている。


「うん、私もそう思ってた。」


同じ日に、別のタイミングで、別の人から言われた言葉が、まるで示し合わせたように似通っていて。
『知らない方が良い』
それが二人共通の言葉。
姉さんの死に関して何事かを知っている、或いは、何かに気付いている人は、皆、口を揃えて言うのだ。
それはそんなにも知るべきではない真実なのだろうか?


「一体、何があったんだ?」


呟いたアイオリアの一言は、この時、私が思っていた疑問をそのまま代弁するかのようだった。
その時、何があったのか?
ムウさんが言っていたように、知るなと言われれば返って知りたくなる人間の心理。
例え、そのために、どんな後味の悪い結末になろうとも、知らなければ気が済まないのだ。
知りたい。
姉さんに何があって、どうして死に追いやられたのか、その真実を。


「アイオリア。私、もう一つ、気になった事があったの。」
「何だ?」
「シュラさん、今の会話の間、一度も私の方を見なかった。」
「??」


それがどうしたと言わんばかりの表情をしたアイオリア。
私の言わんとしている事が理解出来ずに、首を傾げ、眉を寄せる。


「彼、ずっとアイオリアの方ばかり見ていたの。まるで私ではなく、アイオリアに言い聞かせているようだった。」
「言われてみれば、確かに……。」


先程の会話の一部始終を思い出し、アイオリアは考え込んだ。
シュラさんはアイオリアの目を見て、そして、強い視線で訴えるように忠告をしていった。
それは、私に対しての姿勢とは、とても思えない。


「知らない方が良い。それは私ではなくアイオリアにとっての言葉なんじゃないかって。私の気のせいかもしれないけれど……。」
「いや、そう言われれば、そんな感じもするが……。ただ、俺が知ってはいけない理由が何処にあるのか、まるで分からん。浅香の事件には、俺は何も関係ないと思っていたのだが、違うのか?」


自分の知らないところで、いつの間にか事件に関係していたのだろうか?
そんな彼の心が、その表情の変化から手に取るように分かって、私はハラハラしながら横のアイオリアを見上げた。
疑心暗鬼になった心は、自分自身さえも信じられなくしてしまう。
強い心を持つアイオリアに限って、その様な事で自分を疑うなどないと思いつつも、私は少しだけ心配になっていた。





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