それから――。


私達は聖域内の施設を巡って、何か有望な情報はないかと、姉さんを知る人達を訪ねて回った。
だが、聞けた話といえば、殆どが皆、同じ。
姉さんはいつもニコニコしていて、穏やかで、他人への気遣いを忘れない優しい人だった、と。
口を揃えたように、誰もがそう言った。


姉さんの恋人らしき人物の事は誰一人知らず、返ってくるのは「恋人などいなかったと思う。」の一言ばかり。
そして、姉さんはどんな人とも仲が良かったが、その一方で深い付き合いをしていた、所謂『親友』と呼べるような友人はいなかったらしい。
周りの人達とは当たり障りなく接し、深い付き合いは一切なかった。
まぁ、姉さんには裏の役割、『日本へ密かに情報を送る』という使命があったのだから、仕方のない事だが。
ココの人達との深い付き合いは、身の危険に繋がるやも知れぬ綱渡りのようなもの。
自主的に周囲との付き合いを控えていたのだと思えば不思議はない。


「収獲は何もなしか……。」
「ごめんね、アイオリア。付き合わせちゃったのに、無駄足ばかりで……。」
「浅海が気にする必要はない。そう簡単に分かる事ならば、とうの昔に事件は公(オオヤケ)になっていた筈だ。諦めず、根気強くいこう。」


アイオリアの気遣いが嬉しく、私はウンと頷いてから、手を伸ばして彼の腕を掴んだ。
その感触に気付き、アイオリアは一瞬、驚いて私を振り返る。
だが、直ぐに穏やかな笑みを零し、腕から私の手を外すと、自分の手で私の手を包んだ。
大きくて強い手に包まれて、私の全てが彼に守られているような気持ちになる。
初夏の日差しは暑いのに、繋いだ手の熱さを疎ましく感じる事はなかった。


結局、午前中は何も進展する事もなく、私は教皇宮の部屋に帰った。
朝早くから起きて、この広い聖域をアチコチ動き回ったためか、酷く疲れが溜まっていて。
私は午後からの時間を、暫く休憩に当てさせて貰った。


広く豪華な部屋に一人になると、傍にアイオリアが居ない事に寂しさを覚える。
ベッドに横になって、彼と繋いだ右手を上げて、繁々と眺めてみたりした。
手の平には、まだ彼の温もりが残っている。
その仄かな温かさが愛しく、そしてアイオリアの姿を思い出すだけで、胸がキュンと甘やかな音を立てた。


不思議な気分だ。
まだ出会ってから、たったの二日しか経っていないのに、ずっと前から彼の事を好きだったようにも感じられる。
これが『運命』というものなのだろうか?
運命なんてものがあるなんて、これまで一度も信じた事はなかったけど。
普通に暮らしていれば出会える筈のなかったアイオリアと巡り会えたのは、奇跡と言っても間違いではない。


ふと、姉さんが運命の糸を手繰って、私をこの聖域に連れて来たのではないかと思った。
アイオリアと私が出会えるようにと、姉さんが……。


そんな事を考えている内に、睡魔が私を襲い始めて。
ゆっくりと眠りの世界へと引っ張られ、ウトウトとしてくる意識。
そして、私はいつの間にか、深い眠りに落ちていた。


→第9話へ続く


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