「別に探ろうとしてる訳じゃない。ただ知りたいだけだ。浅香について、何でも良いから。それだけだ。」
「なンでだ? なンで、オマエが浅香の事を知りたがる?」


身を乗り出して詰め寄るデスマスクさんと、その後ろから鋭い視線を送ってくる二人。
だが、その三重に重なった視線に少しも怯まず、アイオリアは声のトーンも変えずに言い切った。


「彼女が……、浅香の妹だからだ。」
「っ!!!」


いっせいに注がれる三人の視線。
その六つの鋭い瞳に耐えかねて、私は直ぐに俯いてしまった。
だが、伏せた視線の先に、アイオリアに強く握り締められた自分の右手が映る。
何故か、それだけで安心して、私は皆に分からないようにホッと息を吐いた。


「浅香の……、妹だと?」
「あぁ、そうだ。」
「どうりで、何処かで見た事あるような気ぃはしてたンだが。」
「で、その妹さんが、どうして聖域へ?」


ゆっくりと上げた視線の先には、険しい顔をして、こちらを見ている三人。
一瞬、その迫力に怯みそうになるも、心を奮い立たせて気力を振り絞る。


「知りたいからです。姉の死の真相を、知りたいからです。」
「それで、私達のところへ来た、と。そういう事か。」
「つっても、アンタにゃ悪ぃが、何も知らねぇぜ?」


煙草に火を点けながら、チラリと私を見るデスマスクさんの瞳は鋭いままだ。
態度は砕けていても、警戒心は解かれていないと分かる。


「本当に知らないのですか?」
「あぁ、仲が良かったとは言え、それ程の深い付き合いではなかったしな。」
「本当にか? 彼女の……、例えば恋人の事とか、聞いた事はなかったか?」
「恋人ねぇ。んなモン、いた事さえ知らねぇぞ。」


デスマスクさんの言葉に、他の二人も同意の意を籠めて頷く。
それを受けて、私とアイオリアは視線を交わした。


彼等は何かを知っている。
これは確かな事だが、その内容を問い質す事は極めて難しいだろう。
この一癖も二癖もある三人が、そう簡単に口を割るとは思えない。
例え、それが姉さんの死に直接関係ない事だとしても、彼等は容易には教えてくれないだろう事を、私達は瞬時に理解していた。


「そうか。スマン、邪魔したな。行こう、浅海。」
「でも……。」
「いいから、行くぞ。」


立ち上がったアイオリアに促され、私は後ろ髪を引かれつつ双魚宮を後にした。
聞きたい事は沢山あった。
何でも良い、姉さんに関わる事を少しでも。
彼等なら、何がしかの話を持っていただろうに。


「今は、止めておいた方が良い。」
「アイオリア?」


外に出たところで、アイオリアが私の肩をポンと一つ叩いて、そう呟く。
私を見下ろす緑の瞳には、何か考えがあるのだろう。
瞳の奥に深く、微かな光が輝いている。


「もう少し待とう。時間が経てば、向こうから何か言ってくるかもしれん。」
「そう、なの?」


見上げた私に、アイオリアはゆっくりと頷く。
そんな彼を見て、私は小さく溜息を吐くと、「分かった。」と答えて、目の前の階段を下り始めた。





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