巨蟹宮、双子宮、金牛宮と、どの宮にも宮主はいなかった。
アルデバランくらいは居ると思ったのだが、と首を傾げる彼に、私はそう言えばと昨日の事を伝えた。
「そうか……。サガの手伝いに向かったのなら、もしかして教皇宮に泊り掛けかもしれんな。」
そんなにも仕事が溜まっているのなら、みんなで手伝ってあげれば良いのに。
何となく思った事を小さく呟けば、彼はフッと小さく笑った。
「あれはサガが一人で勝手に抱え込んでいるだけだ。本来なら黄金聖闘士が均等に仕事を分担すべきなのだが、彼は過去の贖罪とやらで自分一人で何とかしようとするんだ。最初は皆で止めていたのだが、最近では止めても無駄だと知って放って置いている。」
「そ、そうだったの?」
「あぁ。たまに、こうしてアルデバランとかが手伝いに向かったりはするがな。」
それだけサガさんが抱える罪の意識は大きいのだろう。
倒れそうになる程、自分を追い込んでまで働き続ける。
あのカノンが心配するくらいに。
金牛宮を出ると勢いを増した朝日が、カッと私達に照り付けてきた。
空には光を遮る雲は一つも見当たらない。
「今日は暑くなりそうだな。」
「日本じゃ考えられないわ。六月にこんな爽やかな朝が過ごせるなんて。毎日、雨ばかりでジメジメしてて、嫌になっちゃうもの。」
「日本か……。一度はゆっくりと訪れてみたいものだな。いつか日本に行った時には、案内してくれるか?」
首を横に傾けて背の低い私を見下ろす彼が、朝の光の中に輝いている。
私は眩しさのあまり、思わず視線を逸らして俯いた。
いつか……。
その『いつか』は訪れるのだろうか?
本当に有り得るのだろうか?
光の眩しさに目を細めて、下りていく階段の先を眺める。
朝日を反射して光る石造りの階段は、まるで光を受けて輝く海面のようにキラキラ輝いて見えた。
「ん? 誰か来たか?」
「え……。」
その輝きの中、光を全身に浴びて、こちらに向かって悠然と階段を上がってくる人影が見えた。
ゆっくりと上っているように見えて、あっと言う間に縮まる距離。
そこに吹き抜ける一陣の風。
その人物の歩調に合わせて揺れ動く金の長い髪が、風に巻き上げられてフワリと舞った。
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