「おぉ、カノン。恋人か? 可愛い娘だな。」


ひとしきり教皇宮の中を案内して貰った後、その周辺施設を見に行こうと外へ出ようとした時だった。
入れ違いに教皇宮へと入ってきた、身の丈二メートル以上はあるであろう驚く程大きな男性に、私達は話し掛けられた。


「アルデバラン。まさか今から仕事……、な訳ないよな。」
「まぁ、当たっていると言えば当たっている。何でも、ミロが執務当番をサボって逃げたとか聞いたのでな。サガがまた一人で追い詰められてるだろうから、猫の手でも貸してやろうかと。」
「猫ではなく牛だろう?」
「ははははっ。」


アルデバランと呼ばれた男性は、カノンの突っ込みに嫌な顔もせず、豪快に笑ってみせた。
その大きな体格から感じられる威圧感とは違って、彼は周りを和やかにさせる雰囲気がある。
豪快な笑い声と笑顔は、何処か私をホッと安心させた。


「そうか、またミロのヤツが逃げたのか。執務室にサガしかいなかったから、おかしいとは思っていたんだが。」
「サガの様子は?」
「デスクに齧り付きだ。まぁ、今日一日程度では、過労死はしないだろうが。」
「ならば、早く行って手伝うとするか。お嬢ちゃん、今度ゆっくり俺の宮に遊びに来るといい。上手いコーヒーもあるしな。」
「あ、はい。では、そのうち伺います。」
「待ってるぞ。」


立ち去りながら私達に手を上げて、身のこなしは意外に軽い。
その場に明るくほんわかした空気を残し、廊下の奥へと姿を消した。


「良い人ね。」
「あぁ、本当にな。自分の執務当番でもないのに手伝いに来るなど、他の奴等では考えられん。」
「それはカノンも含むんでしょ?」
「当たり前だ。誰が好きこのんで、面倒な事務仕事などする? しかも、愚兄の手伝いなど。」


そう言いながら、本当はお兄さんの事を心配してる。
先程の会話の節々にも、それがはっきりと感じられた。


「……そうだな。アルデバランが良いかもしれん。」
「え?」


ボンヤリしてて、カノンが何を言ったのか、まるで聞いてなかった。
教皇宮の外へと向かいながら、私は彼の背中に問い返す。


「何が良いって?」
「護衛だよ、浅海の。俺は明日には海界に戻るから、誰か良いヤツがいないかと考えてたんだ。アルデバランも黄金の一人だが、あの性格だ。浅香と関係があった可能性は低い。」
「でも、百パーセントじゃないでしょ?」
「まぁ、そうだが。でも、限りなくそれに近いし、アイツなら俺も安心して浅海を預けられる。」


カノンの言葉に私はクスッと笑ってしまった。
それを聞いて、彼は不審な顔をして私の方を振り返る。


「何だ、その笑いは?」
「何だかカノン、私のお父さんみたいで……。ふふっ。」
「お父さん? お兄さんの間違いだろ?」


途端に渋い顔になるカノン。
その表情を見て、また私はクスクスと笑う。
フイと私から顔を背けたカノンの後に続いて、教皇宮の外へと足を踏み出した。


一歩、外へ出た途端、降り注ぐ太陽の光が眩しくて。
前の見えない光の強さに、心は何処か落ち着かなかった。





- 5/6 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -