日光の燦々と差す部屋の中。
温かな日差しに包まれたデスクに齧り付くように仕事に没頭している人物は、私の真横にいるカノンと見た目はまるで瓜二つだった。
だが、容姿はそっくりでも、その全身から醸し出されている雰囲気は全くの正反対だ。


何処か茶目っ気があり、時折、整った顔に浮かべる悪戯な笑顔がとても魅力的で、親しみと愛嬌があるカノン。
一方の彼は、眉間に皺を寄せた厳しい表情から窺える通り、非常に真面目で厳格な雰囲気だ。
話し掛けるのも気が引ける、そんな感じ。


「そうか、浅香の……。わざわざ遠い日本から、この聖域まで墓参りに来るとは、大変だったろう?」
「えぇ。でも、カノンが一緒にいてくれましたから。」
「愚弟でも、たまには役に立つ事もあるのだな。」
「どういう意味だ、サガ?」


サガと呼ばれた、カノンの双子の兄である彼は、話しながら時折、チラリと私の方へ視線を向けるものの、仕事を進める手を止める事はしなかった。
こうして話していながらも、心は目の前の書類の方へと百二十パーセント向かっている。
働き過ぎのサラリーマンみたい。
こんな風に根を詰めて仕事していたら、その内、過労で倒れるんじゃないかと、初対面の私でも思ってしまう程に。


「私は見ての通り、忙しくてあまり力になってやれないが、何か必要な事があったら遠慮なく言ってくれ。シオン様に頼むと高確率で忘れられているからな。あの方も多忙ゆえ……。」
「はぁ……。」
「サガ、お前。何気に毒舌になってないか?」


結局、ものの数分で、私とカノンは黄金聖闘士の執務室を後にした。
教皇補佐として山積みの仕事を抱える彼は、見るからに忙しそうだったし、これ以上、邪魔をする訳にはいかない。


「あまり収獲はなかったな。サガ以外の黄金もいなかったし。まぁ、一度に全員と会ってしまうよりか、徐々にという方が良いかもしれんが。」
「そう、ね。」


長い廊下をコツコツと足音を響かせ、私とカノンは黙って歩いた。
カノンは少し考え込んでいる風で、邪魔をしては悪いと思った私は、何も言わずに隣を歩く。
だが、沈黙を先に破ったのはカノンの方だった。


「……どうも俺の推測は外れたみたいだな。」
「え?」
「いやな、俺はかなり高い確率で、サガは浅香の件に関わってると踏んでいたんだが。アイツの、あの淡々とした様子、顔色も変えず、眉一つ動かさなかった。」


カノン曰く、生真面目な彼の事、何らかの関係があるなら、姉さんの名前が出た時に、ホンの少し微かにでも反応が見られる筈だと。
でも、彼は何一つ反応を見せなかった。
それはつまり、彼と姉さんの間には、何の関わりもなかったという事。


「サガだと思ってたんだがな。あの様子じゃ、間違いなく違うだろう。どちらの場合にしても。」
「恋人でも、犯人でもない?」
「あぁ、アイツはポーカーフェイスを貫ける程、器用じゃない。他の奴等のように、したたかではないんだ。」


カノンはまた、その柔らかな髪を掻き毟る。
それは当てが外れてガッカリしたような。
自分の双子の兄が関係なかったと分かってホッとしたような。
どちらとも取れる曖昧な仕草に、私には見えた。





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