「ふうっ……。」


豪華な部屋の一角。
東向きの窓の横に設置されたベッドに腰を下ろすと、私の体重を受けた寝具がボフッと大きな息を吐いた。
それと同時に、私も大きく息を吐く。


「流石に疲れたか?」
「うん、流石にね。」


ベッド脇に立って私を見下ろすカノンは、苦笑混じりに髪を掻き毟っている。
その整っていながらも親しみのある表情を見上げた後、私はキョロキョロと部屋の中を見回した。


「すっごい豪華。」
「一応、客間だからな。まぁ、半分以上はアテナの趣味だが……。」


アンティーク調のベッドの柔らかな寝具をポフポフと叩き、フカフカの枕に倒れ込むように横になる。
ボリュームのある羽根枕が、ベッドに続いてボフッと息を吐いた。


「なんか、貧乏人が間違って一流ホテルのスイートルームに通されてしまったような気分。」
「何だ、その例えは?」
「だから、気後れしちゃうって事よ。」


再び溜息を吐きながら身を起こすと、自分には不釣合い過ぎる大きな部屋を見回した。
設えられた家具はどれも格調高い雰囲気を醸し出して、私のようなパン屋の娘如きになど到底、似合いそうもない。
部屋の中、何を触ろうにも恐る恐るといった感じで、気の休まる時がなさそうだ。


「そのうち慣れる。あまり気にするな。」
「そう言われてもね……。」


私はベッドから立ち上がって、小さな背の高いガラステーブルに近寄った。
そこには水差しとグラスが幾つか乗せられていて、私は手に取ったグラスに水を注ぐと、それを一気に飲み干した。
きっと、このグラスも吃驚する程、高価な物なのだろう。
いかにも有名なガラスメーカーの高級品という感じのデザインだ。


「疲れてるようだし、少し休んでからと思ってたんだが……。その様子では、ココにいるより歩き回ってた方が良いみたいだな。」
「そうね……。うん、そうかも。」
「なら、この教皇宮内と、この周辺を軽く案内してやるよ。行くか?」
「うん、お願い。」


私は持参してきた荷物を広げて片付ける事もせず、また部屋から外へと出てしまった。
気持ちは急いていた。
早く色んな事を知りたくて。
姉さんに関係する、ありとあらゆる事を。


その反面、先程のような混乱に襲われる事を、何処か恐れてもいる。
知る事が少しだけ不安にもなっている。
でも、ココまで来たからには止める事など出来はしない。
今は覚悟を決めて、進み続けるしかないのだから。





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