泣き出しそうな私に気付いたのか、テーブルの下でこっそりと私の手を握っていたアイオリアの手にギュッと力が入って、途端にハッと顔を上げる私。
目が合うと、まだ納得しきっていないのか、彼は眉を寄せたまま両の瞼をゆっくりと閉じ、そして、またゆっくりと開いた。
頭を上下に動かして合図するのではなく、あくまで目だけで知らせてきたという事は、何か重大な意味がそこにあるという事。
私はまだ混乱する頭を働かせて、一生懸命その意味を探った。


「あ……。」
「そうだ、浅海。思い出したか?」
「うん。あの崖崩れの理由が……。」


まだ分かっていない。
完全に全てが当てはまったように見えて、まだ残されたままの不完全なパズルのピース。
姉さんの死は、事件でも事故でもなく、自殺。
そして、姉さんの恋人は亡きアイオロスさんの魂だったというのなら、あの崖崩れには何の意味があったのだろうか?


あの時、アイオロスさんは長期の外地任務に就いていて、聖域には居なかった。
居たとしても、そんな事をする必要性がない。
姉さんの死が自殺だというのなら、デスマスクさんをはじめ、ココにいる三人にも私を襲う理由はないし。
元より、黄金聖闘士全員にアリバイがあるのは以前に確認済み。
新たに浮かび上がった疑問によって、再び、私の頭の中は混乱し始めた。


「アイオリアよぉ。オマエ、まだ納得してなかったンか? 言ったろ。あれは単なる偶然の事故だってな。」
「…………。」
「俺の言った言葉、覚えてるか? 『こんな事をする意味がねぇ。』そう言ったよな?」
「あぁ……。」


意味がない、確かにその通りだ。
私を襲っても何一つ得をする人もいない、何にもならない。
あの時、直ぐに駆け付けてきてくれたデスマスクさんとお弟子さん達が、事故現場を確認したところ、人為的な崩落ではなかったと。
人が手を加えた痕跡などなかった、自然に崩れ落ちてきたものだと、そう言っていた。
アイオリアは、デスマスクさんが上手い事、お弟子さん達の目を誤魔化したんだろうと思っていたみたいだけど。
実際には、その言葉には嘘は全くなかったのだ。
全ては彼の言葉の通りだった。


「あ〜あ、俺ってば、やっぱ随分と信用ねぇんだな。」
「仕方ないだろう。キミの普段の行いが悪いからだ。」
「そうだな。」
「うっせーぞ、テメェ等!」


デスマスクさんの呟きに、半笑いのアフロディーテさんと、まだ苦い表情を浮かべたままのシュラさんが打つ合いの手。
まだ完全とは言い切れないものの、いつもの調子に戻って来た、そんな雰囲気のこの空間。
そんな中、私の視線は自然と、一人黙ったまま、何も言わず俯いて立ち尽くすアイオロスさんへと向かう。
それに気付いたのは、やはりと言うか、私の手をずっと握り締めていたままのアイオリアだった。





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