ずっと気になっていた。
事件の真相を探っていた私達に、脅しにも似た強い忠告を何度か繰り返したシュラさん。
だが、それはいつも『私』ではなく、『アイオリア』に向かっているような気がしていた。
そう、その理由も、全ては『アイオロスさん』に繋がっていたからだったんだ。


「最初は俺自身の知らない内に、事件に何か関係していたのだろうかと疑った事もあった。だが、そういう事だったのか。俺ではなく、兄さんだったんだな。」
「すまない、アイオリア。だが、誰も知らない方が良いと思った。アイオロスと彼女の事は。それは本人と……、偶然、知ってしまった俺達の胸の中に仕舞って置くべきだと。」


人馬宮の横から奥へと入って行った場所にある、あの崖。
そこが十三年前の因縁の場所、アイオロスさんとシュラさんが対峙した場所だったという事、知っていた人は殆どいないのだろう。
アイオリアを含む黄金聖闘士達も、そのような話をしていた人はいなかったし。
何より、私達が聞き込みをしていた中で、その事に触れた人は誰一人いなかった。


「当時、アンタの後を追った雑兵は、皆、始末された。偽教皇・サガの手によってな。シュラが確実にアンタを殺せなかった、その場で死亡を確認出来なかったからだ。だから、逃れた事を知ってた可能性のあるヤツは、ことごとく口を塞がれた。まぁ、塞いだのは俺だがな。」


片眉を上げて、苦い顔をしながらデスマスクさんが続ける。
そう、そこがアイオロスさんの最後の場所だった事は、誰も知らない筈だった。
サガさんと、ココにいる三人以外は。
なのに、姉さんはその崖へと花束を抱えて、月に一度、通っていた。
彼等が訝しく思わない筈はないのだ。


「ある日、突然だった。浅香に『薔薇の花を分けて欲しい。』と言われてね。花が好きだった彼女は、良く双魚宮に顔を出していたし、理由によっては分けて上げても良いと思って、聞いたんだ。そしたら『大切な人の月命日なんです。』と、彼女はそう答えたよ。」


アフロディーテさんの暗い陰を帯びた表情は、息を飲む程に美しかった。
何故だか分からないけれど、彼には哀しい話が良く似合うと、話を聞きながら思う。


「まさか、それがアイオロスの事だとは思いも寄らなかったし、最初はずっと知らなかった。ただ、浅香の大切な人のためにと、それだけの気持ちで薔薇を渡していたんだ。そしたら……。」


そこでアフロディーテさんは憂い顔のまま顔を後ろに向け、そこに立ち尽くすシュラさんとアイオロスさんを見上げた。
その横で、デスマスクさんが溜息を一つ。
そして、おもむろに煙草を咥えて火を点けた。


「シュラが物凄い勢いで私のトコロに来てね。『彼女に薔薇を渡しているのは、お前か?!』と迫ってきたものだから、それで分かってしまったんだ。浅香の大切な人が、誰なのかって事。ホントは知りたいとは思わなかった。それは彼女の胸の中だけにあれば良いのだと、思っていたからね。」


三人が三人とも、違う経路でアイオロスさんと姉さんの事を知って。
そして、三人が三人とも、違う思いを抱えて、その事を黙っていた。


アイオロスさんと姉さんの恋は、二人だけのもの。
それは、例え弟であるアイオリアだろうと、妹である私だろうと、勝手に侵入して踏み荒らして良い思い出では決してない。
真実は隠されたのではなく、胸の奥深くに仕舞われていた。
そういう事だったのだ。


私は溜息を堪えられずに、吸い込んだ息をゆっくりと吐き出した。
何とも言えない気持ちに、どうして良いのか分からなかった。
刹那、スッと伸びてきたアイオリアの手が、テーブルの下で私の手を強く握り締める。
驚いて彼を見上げると、力強く一つ、ウンと頷いてくれた。





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