「まぁ、良い。腹の探り合いは後にしよう。今は事件の事を整理したいのだろう?」


カミュの一言で、探り合いのような睨み合いのような、二人の間にピンと張っていた緊張の糸が緩んだ。
そう、今は例えカミュが事件に深く係わっていたとしても、それでも彼の力、彼の思考を借りたいのだ。
アイオリアも私も、ほぼ同時に「うん。」と一つ頷くと、カミュは落ち着いた声のまま先を続けた。


「まず、君達が混乱している理由、それは色んな事を一度に考えようとしているからだ。もっと、一つの事に集中して突き詰めていけば、絡まった糸も解れてくるだろうに。」
「一つの事? それは、どういう?」
「では、聞くが、浅海が元々、知りたいと思っていたのは、探っていた事は何だった?」


それを聞かれて、ハッとする。
そうだ、確かにカミュの言う通り。
私達は色んな事を見聞きして、色んな出来事に係わり合って、当初の目的が、何処か希薄になっていたように思う。


「私の姉の、浅香姉さんの死の真相を知る事……、です。」
「ならば、他の事は切り離して、それだけを深く追求して考えてみればどうだ? 浅香の死が、自殺だったか、事故だったか。それとも、他殺だったのか。それによって、今回の崖崩れの件も何かしら分かる事があるだろう。」


もし、姉さんの死が自殺、或いは事故だったなら、昨日の崖崩れは単なる偶然の出来事だったと言える。
一方、他殺だったとしたら、その犯人が私を狙って手を下した可能性が高くなる。
つまりは、姉さんの事件について追っていけば、おのずと昨日の事も明確になってくる、と。
カミュが言っているのは、そういう事だ。


「浅海は彼女の恋人だったと思われる人の事も探しているようだが、それについても今は無視するべきではないか? 仮に、彼女の死が他殺だったとして、それに対して、その恋人が何も行動を起こさないのはおかしいと、私も思う。」
「それはつまり、他殺の場合は『恋人=犯人』だ、という事か?」
「そう考えて、間違いないかと……。」


自殺や事故の場合であれば、元々、周囲に隠れて付き合っていた二人だ。
その相手は、胸の内だけで姉さんの死を悼んでいるのかもしれない。
公(オオヤケ)にしていなかった以上、今も恋人であった事を隠し続け、痛む胸を抱いて過ごしているのだろう。
私達が色々と詮索している事に対して、辛い感情を抑え、堪えているのかもしれない……。


「いずれにしても、姉の死の真相を知る事が、関連する物事全てに繋がってくるという事ね。恋人だった人についても、昨日の崖崩れに関しても……。」
「そうだな。昨日の件に関しては、皆、アリバイがあるというのだろう? ならば、一旦、その事は横に置いて、浅香の事件だけ追ってみるのが良いと思う。その他の事については、その結果に、きっと付いてくるだろう。」


カミュのアドバイスを聞いて、混乱していた頭の中が、やっとスッキリと纏まってきた気がする。
実際には何も変わっていないのだから、本当に気がするだけなのだろうけど。
でも、これから進むべき道筋がホンの少しだけ見えてきた。
それだけでも、十分過ぎる程に十分だった。


「ありがとう、カミュ。とても参考になったわ。」
「私の拙い意見でも、浅海の力になれたのなら嬉しい。」
「だが、まだお前に対する疑いが晴れた訳ではないぞ、カミュ。」
「ははっ、そうだな。」


アイオリアったら、釘を差す事は忘れないのね。
私はフッと小さく息を吐くと、チラリとカミュの顔を見上げた。
だが、彼の表情には不快な様子は浮かんではいない。
きっと冗談と受け取ったのだろう。
薄い微笑を浮かべたカミュの表情に、私は心の中で安堵の息を漏らした。


→第15話へ続く


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