もう直ぐお昼になろうとする初夏の十二宮を見下ろし、アイオリアと私は黙ったまま階段を下っていた。
一歩一歩、ゆっくりとゆっくりと。
この調子で下りていったら、白羊宮まで辿り着くのに半日以上は掛かるのではないかと思える速度で、ポツポツと歩いていた。


夏に程近いギラギラとした日差しを浴びながら、頭の中では色んな考えがグルグルと回って。
もう何が何だか分からない。
グチャグチャになって訳が分からなくて。
何が本当で、何が嘘なのだろう?
そもそも嘘なんてあるのだろうか?
全ては偶然が折り重なって、事件のように見えているだけなんじゃないのだろうか?
姉さんの事も含めて全部が……。


「……浅海。」
「ん? 何、アイオリア?」


ぼんやりと足元だけ見て歩いていた私が、名前を呼ぶ声の方へ顔を上げると、アイオリアが数段先を下りたところで立ち止まっていた。
スッと逞しい腕を上げて、前方を指差す。


「少し、休ませて貰うか?」
「ココは……、宝瓶宮?」
「あぁ。カミュの小宇宙を感じる。中にいるのだろう。」


このまま暑い日差しが照り付ける中で、不毛とも思える考えに悩まされながら歩いていても、何にもならない。
アイオリアはそう思って、休憩を提案してきたのだろうし、私もその方が良いと思った。
カミュに話を聞いてもらえば、また何か新しい意見が浮かんでくるかもしれない。


私達が宝瓶宮のプライベートルームを訪れると、カミュは少しだけ驚いた表情をして、でも直ぐに快く中に通してくれた。
部屋の中は綺麗に片付けられていて、シンプルな調度品は落ち着いた彼のイメージにもピッタリ合っていた。


「何だろう……。この部屋って日陰?」
「ん? どうした?」


同じプライベートルームでも、アイオリアの獅子宮はお日様が燦々と照って、暖かいと言うか暑いくらいだったのに。
ココは何となくひんやりとしている気がする。
ううん、気がするんじゃなく、ひんやりとしているのだわ、実際。


「寒いか?」
「え? あ、いえ、寒いと言うか、涼しいと言うか。」
「なら少し調節しよう。私の凍気で部屋の温度を下げているんだ。」


聖闘士とは、そんなことまで出来るのかと、開いた口が塞がらない。
カミュは凍気を扱う聖闘士だとは聞いていたが、話を聞いただけでは全然実感が湧かなかった。
だが、僅かに室温が上がって、ホンの少し鳥肌が立っていたのが治まると、本当に室温を調節しているのだと生で感じられて感嘆の思いが湧き上がる。
これがエアコンなどではなく、人の力だというのだから、驚き以外の反応なんて出来やしない。


「凄いのね、黄金聖闘士って……。」
「今更、何を言ってるんだ、浅海。」


呆れたアイオリアの声と、お茶を運んできてくれたカミュのクスリと笑う声が重なる。
私は唇を尖らせて、肩を竦めるしかなかった。





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