目が覚めたのは、顔に当たる暑い日差しの感覚によってだった。
薄っすらと開いた目には、真っ赤に染まった天井が映る。
斜めに差し込む夕陽に焼かれて、部屋全体が燃えるような赤に染まっていた。


――ココは?


まだ起きたくはない様子の身体はそのままに、ただ瞳だけを動かして辺りを探り見る。
先程まで居たリビングではない。
私が眠っている間に、何処か別の場所に移動したのだろうか?


と、グッと腰を引き寄せられる感覚にハッとして、それまでピクリとも動かなかった身体が飛び跳ねるように反応した。
そして、気付く。
ココは獅子宮の、アイオリアの寝室だという事。
今、私は彼と二人で、大きなベッドの上に寝ていた。
仰向けに眠っていた私の腰を抱くように、その横で横向きに眠るアイオリア。
ソファーの上で交わした激しい情事の後、多分、気を失ったのであろう私を、彼がココまで運んでくれたのだ。


私は自分も横向きに体勢を変えて、アイオリアと向き合うように寝そべった。
部屋を覆う夕陽の赤い色が、彼の薄い金の髪も、小麦色に焼けた肌も染め替えて。
赤でもない、オレンジ色でもない、暖かな影を作る不思議な色合いとなって、彼を包んでいる。
そんな彼の姿を私がジッと眺めている事も知らずに、アイオリアは気持ち良さそうにスースーと眠っていた。


ついに越えてしまった一線。
これを越えれば、後戻り出来なくなると分かっていたから、踏み止まっていた、最後の一歩だったのに。
強引過ぎる彼の情熱に流され、受け入れてしまった。


思った通り、いや、予想以上に彼から与えられたものは大きかった。
私だって、これまで幾つかの恋愛を乗り越えてきた。
男の人と身体を重ねたのだって、これが初めてではない。
でも、アイオリアと抱き合い、愛を交す前から、私には分かっていた事がある。


これは今までの恋愛とは違う。
運命なんて言葉、信じた事など無かったけれど、彼との出逢いは『運命』なのだと、そう自信を持って言えるくらいの衝撃だった。
だから、アイオリアとの情交は、今まで経験したどんな交わりより深く濃いものになるだろう。
きっと自分が予想出来る範疇を越えた喜びが、そこにあるのだろうと、こうなる前から分かっていた。


そして、実際。
レベルも次元も違っていた。
今まで私が経験した事は何だったのだろうと、そう思えてしまう程、彼と交わした愛は素晴らしくて。
完璧なまでの相性と、ピッタリ合った呼吸と。
深く濃密で、気が狂いそうな激しさで身も心も焼かれて。
喜びとか、そういった言葉では足りない、言い表せない。
溺れてしまえば容易く全てを忘れてしまえる程に、それは甘美な至福の時間だった。


こんな愛を知ってしまったら、もう離れられなくなる。
離れたくなくなる、彼の傍から。
彼と共に過ごす時間から。
彼と愛を交わす、この場所から。
そう思うと、嬉しくて幸せな筈のこの瞬間が、酷く切なく感じた。


この一ヶ月が終わったら、私は聖域を離れる。
その時が、彼との別れの時だ。
私には、ココに留まるという選択肢はないから。
締め付けられる胸が痛くて、私は小さく身を縮めて自分自身の身体をギュッと抱き締めた。





- 4/9 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -