「大丈夫か、アミリア? 辛くはないか?」
「はい。有難う御座います、シュラ様。」


式典は、兎に角、人の数が多くて、その密度の高さに何度も息苦しさを感じた。
だが、場を移動する毎に、ひしめく人と人との中で押し潰されそうになる私を庇ってくれたり。
私に余計な負担を掛けさせまいと、シュラ様は何から何まで、さり気なく気遣ってくれていた。


そんなシュラ様の優しさが嬉しく、そして、女官如きの私に対して、そのように細やかな気遣いをして下さる事に感動を覚えた。
交わす言葉は少ない。
それでも、シュラ様の優しさや人の良さは十分に伝わる。
確かに、厳しい方ではあるのかもしれないけれど、皆が言うように恐ろしいだけの人ではないのだと、改めて思った。


式典に続くパーティーは、人の数こそ多くはないが、それでも社交辞令の挨拶や偽物の笑顔、上辺だけの言葉が延々と続く、それこそシュラ様の最も苦手としていそうな場だ。
しかし、今日は聖域の代表としての品位と威厳を備えた立ち居振る舞いをしなければいけない。
女神様のボディーガードとして来ている時とは訳が違う。
慣れないシュラ様にとっては心労も多かっただろう。
にも係わらず、私に対して変わらない気遣いをみせてくれる彼に、私はただただ驚嘆した。



***



「流石に疲れた。」
「そうでしょう。シュラ様は、少し頑張り過ぎてましたもの。」


パーティーの後、宿泊先のホテルへと戻ったシュラ様と私。
彼の部屋の前で、挨拶を済ませたら、私は自分の部屋へと戻るつもりでいた。
だけど、「一杯だけ、付き合ってくれないか?」とのシュラ様からの誘いの言葉を、断れる筈もない。
寧ろ、今日一番で胸が高鳴った瞬間だった。
たった一日でこれだけ心臓を酷使したんだから、寿命が随分と縮まったのではないだろうか。


「アミリアにも、頑張り過ぎているように見えていたか?」
「はい。」


苦笑するシュラ様からの視線を受け、私はニコリと微笑んだ。
長い一日を共に過ごした事で、シュラ様との距離が、かなり縮まったように思う。
身動きの出来ない式典と、各国政府の高官が集まるパーティーという、一種の『戦場』を戦い抜いた戦友のような親近感すら、私達の間には生まれていた。


「悪かったな。」
「何が、ですか?」
「折角のバレンタインだというのに、このような疲れるだけの式典に付き合わせてしまって。」
「どうぞ、気になさらないで下さい。」


少し酔っているのか仄かに赤らんだ顔と、細めた瞳が、いつもよりセクシーだ。
しかも、寡黙で有名なシュラ様が、今は驚く程に饒舌だった。
こんなに気兼ねなくシュラ様と会話が出来る女官など、私以外にはいないだろう。
とはいえ、昨日までの私も、他の女官達と何ら変わりない存在だったのだけれども。





- 8/10 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -