――リリリリリ、リリリリリ……。


『よう、アイリス。どうだった?』
「どうもこうもありません。」


電話の主はミロ様だった。
ここ最近、カミュ様との事で相談に乗ってもらっていた事もあってか、どうやら彼は今回の首尾が気になっていたようだった。
これといって溜まった鬱憤を晴らす場所を持たない私は、ここぞとばかりにカミュ様に対する愚痴を並べる。
電話の向こう側からはミロ様の苦笑ばかりが聞こえていたけれど、私は構わずに話を続けた。


「結局、カミュ様は私の事など、どうでも良いのです。」
『そんな事は絶対にないと思うぞ。』
「でしたら、どうしてあのような……。」


聞こえてきたのは明確な答えではなく、「あ〜。」という小さな呻き声と、どうやら髪を掻き毟っているのだろうバリバリという音。
それから少しだけ間を置いて、ミロ様が再び言葉を紡いだ。
明らかにワントーン下がった声色に、それまで愚痴を吐くばかりだった私の身体が無意識にビシッと引き締まる。


『これはカミュがアイリスに伝えなきゃならないものであって、俺が言うべき事じゃない。そう思って黙ってたけど、アイツがちゃんと伝えないんじゃ仕方ないよな。カミュ、口下手だし。』
「……ミロ様?」
『カミュはアイリスの事が好きで、凄く凄く好きで、だからこそ、アイリスを大事にしたい、大切にしたいって強く思ってる。シベリアは過酷な土地だ。その上、アイツが暮らす場所は、集落からも遠く離れている。とても一般人が生活を営んでいけるようなところじゃない。』
「でしたら、聖域でも……。」
『聖域だって変わりないさ。環境の過酷さはないにしても、いつ、どんな敵が襲撃してくるか分からない。アイリスの身の安全を保障出来ない場所だ。カミュの心理としては、アイリスを安全な場所に留めておきたい。結果、城戸邸に留まる事が一番安全だという結論に達したんだろう。』
「そんな事……。」


そんな事、今更だ。
カミュ様を好きになった時点で、全て覚悟の上だった。
彼が聖闘士である以上、長くは共に居られないだろう事も、死別してしまう可能性が高いだろう事も、自分自身に降り懸かるだろう危険さえも、何もかもを覚悟した。


『覚悟ね……。だが、その覚悟。少し足りなかったんじゃないのか?』
「……え?」
『アイリスは、まだカミュに対して甘えがある。一方的に責めるだけじゃ駄目だろ。アイリスの想いの強さを、お前の覚悟の大きさを、カミュにビシッと突き付けてやれ。良いな。』
「あ、あの……。」
『俺が言ってやれるのはココまで。じゃあな、アイリス。健闘を祈ってるぞ。』


――ツー、ツー……。


最後は一方的に切られてしまった電話。
だけど、心の中に掛かっていた靄が、不思議と晴れていく感覚がして、私はこれまでの事を、もう一度、しっかりと考え直した。


足りない覚悟、私の本気。
それをカミュ様に分かってもらうために、私がやるべき事。
到達した答えは、たった一つだった。





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