***



ホームへと降り立った私は、迷わず右方向へと歩き出した。
エスカレーターに揺られ、改札を抜け、そして、また長いエスカレーターに導かれて辿り着く先にあるのは、北へと向かう玄関口。
見上げた案内板には、『北ウイング』の文字がある。


繁々と眺めるのは、出発案内の電光掲示板。
目的の地への航空機には、まだ空席があるようだ。
初冬のこの時期、天候の荒れる北の地へのフライトは欠航になる事も多いと聞いていただけに、どうやらそれもないようで、ホッと安堵の息が漏れた。
私が抱えた覚悟は、天候不良に邪魔される程にはヤワなものではないと証明された気がして、少しだけ嬉しくもなった。


「釧路行きの最終便、大人一名でお願いします。」
「畏まりました。普通席とクラスA、どちらのお席を御用意いたしますか?」
「では、クラスAで。」
「窓側と通路側が御座いますが。」
「窓側をお願いします。」


夜の便に乗るのは初めての体験。
窓の外の景色は、ただただ真っ暗なのかしら?
晴れてさえいれば、点々と街の灯りが眼下を通り過ぎていくものなの?
フライト中にどんな景色が見られるのか、淡い期待感を覚えて、私は窓側の席を選んだ。


出発ゲートを抜けて、長い長い通路を進む。
視界をよぎる幾つもの搭乗口。
ここから沢山の人々が、それぞれの目的地へ向けて旅立っていくのだ。
視界を横切る窓の外、眩しい光を背負った飛行機が、次々と夜の闇の中を飛び立っていく様子を見遣りながら、私はやっと自分の旅立つ搭乗口、十八番ゲートへと辿り着いた。


向かう先は、彼の滞在する霧の街。
搭乗時間が刻々と迫るにつれ、不安が胸を駆け巡っていく。
もし、カミュ様に受け入れてもらえなかったら……。
彼に拒絶されてしまったら……。


だけど、私はメイドの仕事を辞めて、何処よりも安全な城戸邸を出てきてしまった身。
行く場所は、彼のところしかない。
きっとカミュ様は酷く驚いて、大いに私を叱るだろう。
でも、叱りつける余裕なんて絶対に与えないんだから。
彼の胸の中に飛び込んで、キツく抱き付いて、そして、全力で伝えたい言葉があるから。


貴方の傍に居られないのなら、安全なんて意味はないもの。
貴方の言葉から受けた胸の痛み、分かり合えなくて積もったわだかまり、大嫌いと言ってしまった事への後悔。
そして、全てを捨てて飛び出してきた私の覚悟の大きさも。
何もかも一つ残らず貴方へと伝えるために。
私は今夜、ここから飛び立ちます。
貴方という場所へと向かって。



彼へと旅立つ夜間飛行



(カミュ様っ!)
(……アイリス?! どうしてココへ?!)
(伝えたい事が沢山あるんです!)



‐end‐





このお話のテーマは、そのものズバリの『北ウイング』です。
テーマがテーマだけに、我が師の存在が薄くなってしまいスミマセン(汗)
名前変換も少なくなってしまいスミマセン(滝汗)
我が師は脂の乗った二十三歳設定(笑)、城戸家のメイドである夢主さんに、日本滞在の折に唾を付けたとか……、げふん。
タイトルは先日、私が帰宅する際に十八番ゲートからの搭乗だったというだけです(苦笑)
本当は十一番ゲートにしたかったけれど、それだと多分、南ウイングになってしまうだろうという事で諦めました。
そんなこんなで、こんなグダグダ我が師ですが、どうぞお婿にもらってやってください、Sさんw

2014.11.23



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