「離して欲しいか?」
「……え?」
「この腕、離して欲しいか?」


ジワジワと腕の力を強める俺に、アミリはウンウンと大きく頷く。
ピンと伸ばした両腕は俺の胸元より少し上に当てて、これ以上、近付かないように押し戻そうとしている。
バカだな、アミリ。
そういう行為は男を煽るだけだって事、知らないのか?


「そうだな……。だったら俺の質問に一つだけ答えて貰おうか?」
「な、何です?」


質問があるなら早くして欲しい。
そう言いたげに、手に力を籠めて俺の胸を押し返し、背は益々、俺から離れるようにグッと反らす。


「お前の好きな男の名前、言えよ。」
「……っ?!」
「言わなきゃ、このまま押し倒すのみだ。」
「そんなっ!」


目を見開き、俺の瞳をジッと見つめたアミリは、それが冗談の類ではないと悟ったのだろう。
キュッと唇を噛み、顔を隠すように俯いた。
その間も、俺の力でジワジワと傾いていく身体。
このままいけば、ものの数十秒でソファーに倒れ込む事になる。


「良いのか、このままで? 俺は本気だぞ?」
「ですが……。」
「あと三秒だ。一、二、さ――。」
「待って! 言います! 言いますから!」


カウントダウンをする俺の唇を、慌てて手で塞いだアミリ。
そんな事しても、どうしようもないのにな。
その可愛らしい仕草に、返って抑えが効かなくなるだけだ。


そう思っている内に、覚悟を決めたのか、アミリが赤らんだ顔で俺の耳元に唇を寄せた。
その動作が、まるで頬にキスされるみたいに感じられて、心臓がドキッと大きな音を立てる。
だが、俺の頬を掠めたアミリの赤く艶やかな唇は、俺の耳の奥に向かって、小鳥の鳴き声のように小さな声を囁き掛けた。


「―――。」


僅か一言。
小さく小さく囁かれた言葉。
だが、その一言を、俺の耳は聞き逃すことなく捉えた。


「ほ、本当かっ?!」


今度は俺が目を見開く番だった。
だが、信じられないと見つめる俺に、アミリはコクコクと小さく、それでいてシッカリと頷く。
瞬間、俺の胸の奥にフワリと広がった甘さは、これまでの人生で体験したことのないような感覚だった。
目の前で頬を真っ赤に染め、伏し目がちに俺を見上げるアミリが、こんなにも愛おしい。


だったら、この腕の力を緩める必要なんて、何処にもない。
迸(ホトバシ)り出そうになる激情を抑えていた心の枷を放り捨てて、俺は再びアミリの身体を倒しに掛かった。
今度は抵抗もなく、二人共にゆっくりとソファーの上に沈む。
伸ばした手で、彼女の着ていたシャツのボタンを外せば、後はただ、情熱の雨の中へと身を投じるだけだった。



雨の雫ひとつ
高い音を響かせ、この胸の奥に落ちた



出来れば暫く、降り止まないでくれ。
雨のベールに包まれ隔離されたこの宮の中、彼女と二人だけで過ごしたいんだ。
もう少しだけ、このまま……。


「お前が好きだ、アミリ……。」



‐end‐





カノン、セクハラ親父疑惑発覚w
そして、実は自分の気持ちにも気付いていなかった、意外にも鈍いカノンとかw
どうも私がカノンを書くと、キャラがおかしい気が……(滝汗)
修行し直してきます。

2008.08.03



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