この胸に甘い疼きを



「悪いな、アナベル。付き合わせてしまって。」
「良いですよ、気にしないで下さい。探し物は得意ですから。」


午後の光が斜めに差し込む教皇宮の書庫の中。
私達は、その奥まった一角で、仕事に必要な資料をひたすら探していた。
背の高いアイオロス様は、私では届かない書棚の上段を中心に目を走らせ、一方の私は腰を低く屈めて下段に差し込まれた膨大な数のファイルの見出しと睨めっこ。


「ふぅ、ないなぁ……。」
「ココにもないみたいですね。」


立ち上がった私は、自分が探していたのとは反対側の書棚の前で睨めっこ中のアイオロス様の方を、何気なく振り返った。
左手は腰に当て、もう一方の空いた右手で、その金茶の髪を掻き毟りながら、途方に暮れたように書棚の前で首を傾げるアイオロス様。
窓から差し込む陽の光が、その大きな背中を照らして、白い法衣が眩しく輝く。


素敵な人だな。
仕事中だというのに、彼の後ろ姿を眺めて、そんな事を考えてしまう自分。
そんな風にボンヤリしている場合じゃないのに、私は少し疲れているのかもしれない。
しっかりしなきゃ、見つかる物も見つからなくなる。
心の中、自分で自分に活を入れてから、私はアイオロス様の方へと近付いた。


「見当たりませんか?」
「う〜ん。多分、この辺だと思うんだけど……。さっきの資料がココにあったんだから、もう一つもこの辺りに……。」


そう言って、書棚の中段の空いたスペースを指差し、その左右に指を振る。
私は、そこから視線を横にずらして並んでいるファイルの見出しを確認し、一段ずつ順に下へ下へと目的のファイルを探して腰を屈めていった。


「あ、これ……。」
「ん? 見つかったか、アナベル。」


書棚の最下段、その一番端っこのファイルの見出しを確認していた私は、床に座り込むような体勢になっていた。
そのファイルを取り出し、膝の上で広げてみる。
すると、それは探していた資料と思われる書類が幾つも綴られていて、私はそのファイルを抱え、慌てて立ち上がった。


「ほら、見て下さい。これじゃないですか?!」
「どれどれ。」


私に近寄ってきたアイオロス様が、斜め後ろにピッタリと寄り添い、覗き込むように腕の中の資料を確認している。
彼が傍に来た瞬間、フワリとお陽様の匂いがした気がして、暖かな光に包まれたような気分になるのは気のせいかしら?
アイオロス様の気配を背後に感じて、そんな事を思いながら、私は妙にドキドキしていた。





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