「残念ながら、これじゃないよ、アナベル。俺が探してるのは一昨年の資料だ。これは去年のだよ。」
「え? あ、本当ですね。ココに日付が書いてありました。」


折角、見つけ出したと思ったのに。
残念な気持ちで背後を振り返ると、目の前にアイオロス様の微笑む顔があって、心臓が驚きでドクンと大きな音を立てた。
私の抱えたファイルを覗き込んでいた彼は、予想以上に近くにいたらしい。
三十センチ……、いや、二十センチ?


そのくらい至近距離で目が合って、刹那、アイオロス様の顔から微笑みが消える。
短いのか長いのか、それすらも分からなくなった時間の中で、彼の真剣な瞳に見つめられ、私は呼吸の仕方すら忘れてしまった。


「あ、あの……。もしかして、そっちの棚じゃ……。」


激しく鳴り出した自分の心音が煩わしい。
彼のブルーグリーンの瞳の中に捉えられ、胸がヤケに苦しくて切なくて。
何だか分からないけど、落ち着いて黙ってなんかいられなくて。
私は慌てて目を逸らすと、隣の書棚の方へパタパタと走った。


「あ、何かココにありそうな雰囲気ですよ。」


わざとらしい。
自分でも、そう思う。
アイオロス様からするお陽様の香りとか、宝石色に輝く瞳とか、緩めた法衣の襟元から見える首筋のセクシーさとか、今にも何かを言い出しそうな唇とか。
彼から感じられる全てから、目を逸らせ、逃げようとしているのだ、私は。


「アナベル……。」
「あっ……。」


だが、本気になった彼から、逃れられる筈なんてないのだ。
必死で書棚を見上げている振りをしていた私の背後へと、素早く移動したアイオロス様は、両腕を伸ばして書棚に手を付き、私の左右を塞いでしまう。
そして、そのまま腕を狭め、逃げ場を失った私を背後からゆっくりと抱き締めていった。


「アイ、オロス……、様?」
「綺麗な髪をしているな、アナベル。いつも触ってみたいと思っていた……。」


こめかみから差し込まれた彼の指が、感触を確かめながら私の髪を掻き上げていく。
その男らしい指が耳を掠った瞬間、私の身体は正直過ぎるほど正直に、ビクリと反応した。


「あ……、んっ!」


その反応を待っていたかのように、顎を掴んだアイオロス様の手によって横を向かされた私は、抵抗する間もなく熱い唇に囚われてしまった。
触れた瞬間、流れ込んでくるのは、発光しそうな程に熱く燃え上がる彼の想い。
ただ受け入れるしか出来ない私は、目眩すら越えて、意識が飛んでしまいそうだった。



熱い口付けで、甘い約束を



抱き締められた背中で感じる、アイオロス様の体温。
背に触れる胸板からは、彼の心音が早鐘を打っているのが聞こえる。
アイオロス様の心も、私と同じだけ高揚しているの?


「好きだよ、アナベル。今夜、俺の宮で待ってるから、来てくれないか……。」


身体が離れてしまう瞬間に、耳元に囁かれた言葉。
今夜、夜が更けるまで、私の胸は甘い疼きに支配され続けるだろう。



‐end‐





まだまだ続くロス祭!
ただただ法衣のセクシーロス兄さんに、誘惑されたかったのです。
そんな願望の現われ(笑)

2008.11.19



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