だが、思いの外、アリアは見つからず、気付けば四つの季節が通り過ぎていた。
グラード財団の情報網を使えば、もっと簡単に見つかったかもしれない。
だが、そんな事はしたくなかった。
俺は自力でアリアを見つけ出し、自力でアリアを連れて帰る。
そう頑なに思い、ひたすら自分の足だけで彼女を探した。
やっとの思いでアリアを見つけ出した場所は、南フランスの静かな町だった。
やはりというか、海が近くて彼女が好みそうな土地。
穏やかな海風が優しく、この地を初めて訪れた俺をも暖かく迎え入れてくれるように吹き抜ける。
一年振りの再会。
俺はどうして良いのかまるで分からず、とりあえずとばかりに花を買ってみた。
道端で可愛らしい少女が売っていた花。
真っ白な百合の花を。
昔、アリアが好きだと言ってたのを思い出して。
何を話すべきか。
いや、先ずはアリアに会う事が大事だ。
言葉は、きっと顔を見れば溢れてくるに違いないから。
単刀直入に「好きだ。」でも良い。
「聖域に帰るぞ。」でも、何でも良い。
兎に角、本当の自分の気持ちさえ伝えられればと、それだけを思って歩いた。
しかし――。
辿り着いた、小さな白い家。
その家の前で、俺は凍り付いていた。
アリアの名前はある。
名前はあるが……、ファミリーネームが違う。
それに、アリアの名前の上には、男の名前。
そして、下にも別の名前。
まさか、そんな……。
俺は気配を絶って、音を立てないよう家の裏側に回った。
そこには小さな庭があり、家族らしき人達が楽しげな笑い声を上げていた。
庭を駆け回る犬。
その犬のための犬小屋らしきものを製作中の男。
それを横で見守る女――、間違いない、アリアだ。
だが、その腕には産まれて数ヶ月も経っていないだろう赤ん坊が抱かれている。
瞬間、全てを悟った。
遅過ぎた。
もう、俺の入り込む余地など、アリアの心の何処にもないのだという事を。
誰もいない海岸を、一人歩く。
初めて訪れた海なのに、その景色は何故か郷愁を誘った。
ふと、手に持ったままの花束に気付く。
俺の知らない笑顔を家族に向ける、まるでアリアのように大輪の花を咲かせる白百合。
俺はやりきれない想いを籠めて、それを海に向かって放り投げた。
次第に沖へと流されていく花束は、波に揺られて頼りなく浮かんでいた。
波音は遠く、儚く流れた時間を悔やむばかり
この想いを、何処に流せば良い?
終わりを知らない悲しみに、記憶の中の彼女が酷く痛かった。
‐end‐
5万打達成記念リクのデスマスク悲恋夢でした。
かなり捏造度が高く、リクに添えているか怪しいところです;
が、久し振りの悲恋も、なかなか書き応えがあり、楽しかったです。
2008.09.23