寄せては返す波の音に、柄にもなく感傷的になる。
慈悲のない水の冷たさは、俺の行いを非難しているように思えてならなかった。
傾き掛けた陽の光が、波に反射して眩しい。
俺の視界を遮る輝きは、自らの手に届かなくなったものと似て、近くて遠い触れることの出来ない『何か』だ。


俺はあの時、何と言ったか――。


「だったら今晩、俺に抱かれるか? 俺を満足させられたら、一人前の女として認めてやるよ。」
「っ?!」
「出来ねぇだろ? だったら、ンな事言うな。俺の女になるにはな、それなりのレベルってモンが必要なんだよ。」
「…………。」
「おら、この話はコレでお終いだ。とっとと帰れ。」


アイツを諦めさせるには、それが一番だと思った。
多少傷付けても、キッパリと分からせる。
そうすれば、もう同じ事は言い出さない筈だと勝手に決め付けて。


だが、アリアは、翌日には姿を消していた。
二度と俺に会う事もなく、長年過ごした聖域をあっさりと捨てて出て行った。
あれはアリアにとって、最初で最後の一世一代の告白だった。
叶わないなら全てを捨てようと、それだけの覚悟を抱いて俺の元へ来たんだ。
その事に俺は気付けなかった。
そして、傷付け追い払った。


胸の奥が痛い。
俺を責めるように寄せる波音が耳の奥に響き、耳を塞ぎたくなる衝動に襲われる。
徐々に薄く赤へと染まっていく西の空と、次第に暗い色を濃くしていく東の空。
何度もココでアリアと共に過ごした時間を思い返しながら、失ったものの大きさに初めて気付く。
認めたくはないが、ディーテとシュラが言っていた『後悔』とは、きっと今の俺の心境を指しているのだろう。


「アリア……。」


波音に掻き消される声。
だが、声に出してはじめて確信する。
俺の心は一つなのだと。
求めているもの、必要としているもの、本当に思っていた事。
アリアでなければ、ダメだという事。


追い駆けよう、アリアの事を。
今からでも、きっと遅くない。
探し出して、そしてもう一度――。


立ち上がった俺は、そのまま海に飛び込んだ。
服が濡れようが、どうなろうが、気にしなかった。
ただ、この海に沈んで全てを洗い流したかった。
たった一つ、やっと分かった自分の想いだけ胸に残して。


アリアを探そう。
冷たい水の上に浮かび、俺はそれだけを思っていた。





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