――ガチャッ。


「アリア、着替え終わったか?」
「キャッ?!」


再びノックもなく開けられた扉。
私は反射的に小さな悲鳴を上げた。
そんな私の態度に、デスマスク様は当たり前の如く不機嫌になる。


「あ? もう着替え終わってンじゃねぇか。悲鳴上げる意味なンざねぇだろ。」
「で、デスマスク様が、いきなり扉を開けるからです!」
「ノックの必要性があンのか? オマエは俺の所有物だってのに。」
「しょ、所有物?! い、いつからですか?!」


私は彼の所有物になどなった覚えはないし、なれと言われた覚えもない。
大体、私は城戸家のメイドであって、デスマスク様個人に仕えている訳でもない。
お嬢様の命令があるから従いはすれど、それ以上の何やらかにやらとか、アレ的なそういう事は、ご自分が雇っている従者にでもさせれば良い事でしょう。


「今夜、だろ。」
「は?」
「いつって問われりゃ、今夜、オマエは俺の所有物になった。いや……、これから所有物になる。これが答えだ。そうだろ、アリア?」


そんな言い方、卑怯だ。
それでは、まるで私に選択権があるみたいに聞こえるもの。
でも、実際には私に選択権なんて初めからなく、全て彼の思い通りに事が運ばれると決まっている。
分かっている、完璧主義のデスマスク様のプランに、綻びなんてあろう筈がない。
ただ一つ、私がいつものメイド服を着て現れた事以外は。


私の心の中なんて、彼にはお見通しなんだろう。
目を見開いて立ち尽くすだけの私に向かって、ニヤリ。
最高に楽しそうに、そして、最高にセクシーに口角を上げて笑うと、デスマスク様は身を屈めて、手に持っていた銀のパンプスを床に置いた。
そのまま、スッと伸ばした手で、私の足を取り上げた彼が、まずは右足、それから左足と、順にパンプスを履かせていく。
そして、最後は足首に小さくキスを。
刹那、全身を突き抜けたのは、震えが走る程の甘い痺れ。


「さて、今夜はパーティーだぜ、アリア。」
「は、はい……。」
「俺のパートナーとして粗相のねぇようにな。上手く乗り切ったら、スペシャルなご褒美をくれてやる。」
「ご、ご褒美?」
「オマエの人生で一番、最高の夜にしてやるよ、アリア。勿論、俺にとっても最高の夜になる予定なンだがな。」


一瞬だけ、胸ポケットからチラリと引き出して見せたのは、パーティーが開かれるホテルのカードキー。
ニヤリ笑いを引っ込める事なく、私に送られた色っぽいウインクは、他の人ならば馬鹿らしいとしか思えないキザな代物なのに。
それがデスマスク様だというだけで、先程、体内に呼び覚まされた甘い痺れが、熱い溜息を伴う深い疼きへと変わる事を、身を持って知った瞬間だった。



今宵は彼と二人で



「今夜は帰さねぇぜ。オマエは俺の所有物だからな、アリア。」


ふざけないでと言い返さなきゃいけないのに、何故かコクリと深く頷く自分がいた。
この夜。
夜の街の人波も、パーティーの喧騒も、煌めく夜景も、夢の中の事のように、ぼんやりと私の視界の中を通り過ぎていったけれど。
デスマスク様と共に沈んだベッドの上での出来事は、燃えるような熱い記憶として、強く濃く胸の内に刻み込まれた。



‐end‐





雰囲気EROな蟹氏を目指して書いてみたんですが、どうでしょうか?
寧ろベッドの上での出来事が読みたいと叱責されそうですが、そこは各自の妄想で補っていただければw
ちなみに私的には、ビシッとオサレスーツwを着こなす蟹氏が書きたかっただけとか言います^^

2013.06.23



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