「ミャッ!」


ダンッと勢いを付けて、右の前足を渡り板へと踏み出すシュラ様。
その勢いにより、ユラユラと上下にしなる板。
揺れる板の真ん中で爆睡するアイオリア様は、目覚める気配すら見えない。


「ミミャッ!」
「ちょっとシュラ様っ!」
「おいおい、アンヌ。アレ、ヤバいんじゃないのか?」


ダラリと板の両側から垂れ下がる細長い四本の足が、波打つ揺れに合わせてフワンフワンと揺れているのを、ミロ様と私は真下から見上げているしかない。
だが、私達が何を叫ぼうと、何やら楽しくて仕方なくなってきてしまったシュラ様は、右の前足で渡し板をユラユラと揺れ動かし続けている。
あああ、もう!
何で、そんなに猫アイオリア様を虐めるのが好きなんですか、この猫シュラ様は!?


「ミャッ!」
「わわわっ?! あ、危ないっ!」
「ミ……、ミイィッ?!」


最後の一押し。
シュラ様がバンッと力強く渡し板に踏み込んだ。
大きくしなり上下する渡し板。
アイオリア様の小さな身体が、ズルリと右側に傾き、アワアワと焦って見ている間に、猫ちゃんは頭から床に向かって真っ逆さま――。


「おおっとぉ?!」
「ミ、ミイィッ。」


身体が宙に舞う直前で、流石に目を覚ましたアイオリア様だったが、時既に遅しで、身体は既に空中に。
猫の運動能力で何とか身体は回転させたものの、このままでは後足から床に激突してしまう……。
だが、寸でのところで見事、ミロ様が両腕の中にキャッチした。


「危なかったな。キャッチ出来て良かった。」
「シュラ様、何て事をするんですか?! 意地悪にも程がありますよ!」
「ミャッ。」


渡し板の上から、私達を見下ろすシュラ様は、フンと鼻を鳴らして聞く耳持たず。
そこに居れば、私が手を出せないと知っていて、強気に顔を逸らし反省する気もない。
本当に憎らしい猫ちゃんです。
愛らしいと思っていたのも刹那、やはり我が儘自己中のシュラ様は憎らしい猫ちゃんでした。


「何? アイオリア、落っこちたのか?」
「ロスにぃ、気付くの遅いから。本物の猫とラブラブになった挙句、弟の危機に気付かないとか終わってるだろ。」
「いやいやいや、ちょっとアレだから! カプリコと戯れてたら眠くなっちゃって! ちょっと一緒にウトウトしてただけだから!」
「ウトウトしていたんですね、アイオロス様……。」


執務をサボって、猫ちゃんと遊んで、更には昼寝(まだ午前寝ですかね)までしていたなんて、随分と良い御身分ですね。
サガ様が唸り声を上げ、目を釣り上げ、ギリギリと歯噛みし、治まらない胃痛で悶絶するのも当然です。


「俺の昼寝は兎も角として! アイオリアを虐めたのは誰だ?! シュラか?! シュラなのか?!」
「上手い事、話を逸らそうとしてるけど、ロスにぃはシュラを責められないよな。」
「そうですね。アイオロス様も同罪ですね。」
「ミイィ……。」


私はミロ様の腕からアイオリア様を受け取り、その小さな身体をギュッと胸に抱き締めた。
頭上から何やら抗議の鳴き声がギャーギャーと聞こえてくるが、ここは無視だ。
私はシュラ様に見せ付けるように、モッフリ可愛いアイオリア様の金茶色の狭い額へ、頬を擦り寄せたのだった。





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