4.猫達の小競り合い



「フガフガ、ゴロゴロ……。」
「はいはい、ココですか? それともコッチですか?」


――ワシャワシャワシャ……。


「ゴロゴロゴロ……。」
「アンヌ。本っ当にコレ、シュラか? どう見ても猫にしかみえないんだけど。」
「違和感ないですよねぇ。猫ちゃんになっても、全く困ってないみたいですしねぇ。」


目の前には、お腹を天井に向けて床に転がる黒猫姿のシュラ様。
私がお腹を撫でる度に、身を捩りながら心地良い場所に当たるよう身体を動かし、そして、ゴロゴロと気の抜けた声を上げる。
目は細められ、足はだらしなく開き、寛ぎきった愛玩動物の姿そのもの。
だが、それを眺めるミロ様と私は、やや呆れ顔だ。


「もう人間に戻れなくても良いんじゃないかってくらい、猫として馴染んでるよな。」
「馴染んでいるのは兎も角として、元に戻っていただかないと困ります、私が。」


このままでは一生、我が儘猫ちゃんのお世話をして過ごさなければならないじゃないですか。
それは困ります。
本当に困ります。


「はぁ……。」
「ミャン。」
「ミャンじゃありません、ミャンじゃ。もっと危機感を持っていただかないと。」


溜息と同時に手が止まった事で、仰向けに転がっていたシュラ様が腹這いにコロリと体勢を変える。
そこから数歩、前に這い進み、私の膝から腰回りに掛けて、その小さな顔や身体を擦り寄せくるシュラ様。
甘えてくれるのは嬉しいし、姿も仕草も愛らしくて、その可愛さに胸がキュンキュンとしてしまうのだけど。
だが、本来ならば、こんな風に和んでいる場合ではないのだ。
今のこの状況は、非常事態なのだから。


私は擦り寄るシュラ様を膝の上に抱き上げ、頭から身体、尻尾まで、ゆっくりと手を滑らせた。
艶々で滑らかで、手に柔らかな、この感触。
その至福の手触りにウットリしながら、部屋の中を眺め遣る。
ソファーの上では、すっかりカプリコちゃんと仲良しになったアイオロス様が、一人と一匹の世界にドップリと入り込んでいた。
ミロ様は私と一緒にシュラ様を弄り倒して楽しんでいる。
デスマスク様だけが、他に何か手掛かりはないかと、十二宮の中を捜索しに出掛けて行った。
頼りになるのがデスマスク様だけだというのが、何とも色々と問題だらけな気がしますが……。


「そういや、アンヌ。アイオリアはどうしてる?」
「まだキャットタワーの上に居ると思うんですけど……、あっ!」


ミロ様に言われて、先程、アイオリア様が我が物顔で私達を見下ろしていた場所――、キャットタワーから本棚へと架けられた渡し板を見遣る。
すると、その渡し板の真ん中辺り、細い板の両側から細長い手足が四本、プラーンと垂れ下がっているではないか。
当然、ダラリと力の抜けた状態で。


「おいおい。アイオリアの奴、まさか、あんな高い場所で寝ちゃったのか? しかも、すっげー横幅細いぜ、あそこ。」
「いや、でも、流石にアイオリア様ですし、バランス感覚は良い筈ですから、落ちる事はないかと……。」


とは言いつつも、心配は心配だ。
背の高いミロ様の頭よりも、まだ高い位置。
しかも、猫ちゃんのスリムな胴体がはみ出るくらいの細い板。
グッスリ眠ってしまえば、身体は左右のどちらかに傾く訳で……。


「ミャッ!」
「わっ?! シュラ様、何を?!」


と、その時、私の腕の中にいたシュラ様が、ヒョーイと飛び降りて、そのままキャットタワーを上り始めた。
スルスルと身軽に素早く、あっと言う間に、一番高いところまで。
そして、辿り着いたのは、アイオリア様の居る渡し板の手前で……。
あぁ、これは激しく嫌な予感しかしないわ。





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