朝御飯なんだし、少し軽めで良いわよね。
デスマスク様といえど、この状況で食事に文句は吐かない筈。
昨日、買ってきたバゲットを切り分け、頂きもののベーコンとソーセージを焼いて、付け合わせの炒り卵と、茹でただけの人参、そして、レタスとキュウリの軽いサラダを並べる。
この人参が本当に美味しいの。
甘くて臭みがなくて、ホコッとしていて。
お裾分けしてくれたアルデバラン様が、こんなにも美味しいお野菜を、裏庭に作った家庭菜園で栽培したというのだから驚きだ。


「後は、と。シュラ様達の餌――、じゃなくて、御飯も用意しなきゃ。」


でも、この宮には、猫ちゃん用の餌箱なんてない。
仕方なく、小さめの平たいお皿を三枚並べて、その上に、開けた猫缶の中身を少しずつ盛った。
猫は、そんなに沢山は食べないと聞いているけれど、このくらいで大丈夫かしら?
多過ぎる?
少な過ぎる?
うーん、イマイチ良く分からないので適当で……。


「朝食が出来上がりましたよ……、あっ!」
「ミャー!」
「ミイッ!」


リビングに戻った私の目に、真っ先に飛び込んだもの。
窓に近い壁側に設置されていたのは、キャットタワーだった。
しかも、かなり大きい。
私を追い出した後に、デスマスク様が作っていたのがコレでしたか。


「どうしたんですか、これ?」
「貰いモンだ。知り合いの猫好きなオヤジから貰ったンだが、ウチの宮には立派なキャットタワーがあるからな。使わずに放置してあったンだが、丁度イイと思ってよ。」
「ミャーン。」


せっせと上り下りするシュラ様とアイオリア様、そして、カプリコちゃん。
アイオリア様は既に、一番高いところに上って、上から私達の姿を見下ろしている。
シュラ様は真ん中辺りの高さの場所に留まり、その鋭い瞳で私の事をジッと見ていた。
と、右前足をヒョイと上げたシュラ様は、私に向かってクイクイッと手を招いてみせる。


こ、これはリアル招き猫?!
可愛くて美人な黒猫招き?!
何ですか、この超絶愛らしい生き物はっ?!


「アンヌ、飛び付いて抱き締めンのだけはヤメロよ。」
「はっ?! わ、私、声に出ていました?!」
「出てた。思い切り出てたぜ。」
「わ、忘れてください……。」


フンと鼻を鳴らしたところをみるに、多分、忘れてはくれないのだろう。
デスマスク様は、そういう人だ。
うん、分かっている、彼が意地悪な人だって事くらい、良く分かってる。


そうこうしている間に、デスマスク様は長くて細い板を持ち上げた。
何を始めるのかと思い、黙って見ている私と猫ちゃん達の前で、それをキャットタワーの一番高い場所から、壁側に設置していた書棚の上へと渡した。
目の前に、細い板の橋が出来たアイオリア様は、小さく首を傾げている。


「空中キャットウォークだ。ほれ、渡れ。」
「ミイィッ。」


――パタパタ、トテトテ……。


「真下に入って上を見ろ。猫が真上を歩いてて、楽しいぜ。」
「わ、本当だ。アイオリア様が上を歩いていますね。」
「ミャッ。」


いつの間にやら、シュラ様までキャットタワーから下りてきて、私の横にちょこんと座り、可愛く真上を見上げていた。
それにしても運動神経良いですね、アイオリア様、流石です。


「アホ、アイオリアの運動神経じゃねぇよ。猫は、この程度で普通だっつの。ま、猫は高ぇトコ好きだし、元が黄金聖闘士のコイツ等なら、これくらいはあった方がイイだろ。」
「あ、有り難う御座います、デスマスク様。」
「さ、メシメシ。朝メシにするぞ、アンヌ。あー、腹減った、腹減った。」
「ミャン!」
「ミイッ!」


そう言うと、勝手知ったる何とやらで、ズカズカとダイニングへ向かったデスマスク様。
その後を追うように、黒いしなやかな身体を翻したシュラ様と、慌ててキャットタワーから下りてきたアイオリア様、そして、最後尾にノンビリと優雅に歩くカプリコちゃんがくっ付いて行ったのだった。



→第2話へ続く


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