闇のリズム的にゃんぱに・リターンズ



1.悪夢、再び



――チチチチ……。


窓の外から聞こえる小鳥のさえずり。
カーテンの隙間を縫って射し込む柔らかな日差し。
心地良く、さわやかな晩春の朝。


だが、私の心は決してさわやかではなく、私の身体は決して心地良い寝起きのダルさに包まれている訳でもなかった。
身体は重く、頭も重く、そして、腰が痛い。
鈍い痛みに苛まれ、微かな呻きを上げながらベッドに身を起こす朝。
隣にシュラ様の姿は既になかった。
いつもの朝のトレーニングだろう。
あの人は、どんなに張り切ろうと、身体に張りや痛みやダルさなどは微塵も感じた事などないのだ。


「ううっ……。本当に手加減をしらないんだから、シュラ様……。」


痛む腰を擦りつつ、上掛けを捲る。
彼と共に夜を過ごすようになって、就寝の際は夜着を着なくなった私は、上掛けを身体から剥がすと同時に、ベッド脇に置かれたバスタオルに手を伸ばすのが、朝の第一動作となっていた。
が、その時――。


「……ミャッ。」


視界の端に、何かが見えた。
黒い塊のような、何かモソモソと動くものが。
しかも、それが猫の鳴き声を上げた?
いやいやいや、気のせいよ、気のせい。
リビングならまだしも、こんなところに猫ちゃんが居る訳がない。
ココはシュラ様の寝室、しかも、ベッドの中だ。


「ミャミャッ。」
「ひゃっ?!」


そう自分に思い聞かせようとしたのだが、その黒い塊が無防備な裸の脇腹にスリスリと攻撃を仕掛けてきて、それは無駄な努力に終わった。
艶々の高級絨毯を撫でているような、短毛猫ちゃんのこの感触。
擽ったいけど、気持ち良い。
スリスリされるより、寧ろ、こちらからスリスリしたいくらいに気持ち良い。


なんて、浸っている場合じゃない!
猫ちゃんの素晴らしい毛並みにウットリしている場合でもない!
何ですか、これは?!
何なのですか、この猫ちゃんは?!


「黒い猫って、まさか……。」
「ミャン!」
「いや、違う。絶対に違うわ。この子は、あれよ。アイオリア様のところのカプリコちゃんよ。ね、そうよね?」
「ミャー。」


まるでフルフルと首を左右に振るような仕草をする猫ちゃん。
それは「自分はカプリコではない。」と言いたげな様子で。
いや、でも、まさか、またあのような事になるなんて考え難いし、ある筈がないと思う。
そもそも、あの猫化はアフロディーテ様の暴挙によって起こった一種の人災で、薔薇毒を使った怪しげな薬を、シュラ様が再び摂取するなんて、どう考えても有り得なかった。


うん、だから、この子はカプリコちゃんだ。
アイオリア様が飼っている、見た目はシュラ様が猫化した姿にソックリな猫ちゃん。
そうよ、そうよ。
この子はカプリコちゃんよ。


「ミミャッ!」
「わわっ! ちょっと! ど、何処に潜り込んでるんですかっ?!」
「ミャッ!」


猫でありながら、黒く狭い額に怒りマークらしきものが浮かんで見えた。
と思ったら、勢い良く私の足の間に潜り込んできた。
い、今、裸なんですけど、何も着てないんですけど!
猫とはいえ、そんなトコロに潜り込んでくるなんて、何て破廉恥な……。


「な、何てことをしてるんですかっ?!」
「ミ、ミャー!」
「あ……。」


慌てて捕らえ、身体から引き離す。
だが、脇の下に手を入れられた猫ちゃんのブラーンと伸びた身体が、私の目の前で揺れた時、それに気が付いてしまった。
カプリコちゃんは雌だ。
だが、この黒猫ちゃんは明らかに雄だった。





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