「あ、ホットココアだ。」
「そう。飛鳥が作ってくれたレーズンクッキーには、やっぱりココアかなと思ってね。」
「甘ったりぃなぁ。やっぱ俺はコーヒーだな。三時の一服には濃くて苦ぇコーヒーだろ。」
「だったら、蟹は自分で淹れてきなよ。私はそこまではしない。」
「ヘーヘー。勝手にやりますよ。俺の好みは誰にも分からねぇからな。インスタントでも、俺が淹れりゃ凄ぇ美味ぇのが出来上がンだからよ。」


蟹がキッチンへと姿を消すと同時に、カップから唇を離した飛鳥がホウッと息を吐く。
甘いココア風味の、温かな息。
そして、ラムレーズンのたっぷり入ったクッキーを摘めば、それはまさに幸せの味だ。
窓の外に雪が降り積もるのを眺めながら、暖かな室内で、温かなティータイムを過ごす。
聖闘士である私達が、このようなほっこりした団欒を過ごして良いものなのだろうか。
心の奥、僅かに滲むのは罪悪感。


「キミの作ったクッキーは本当に美味しいけれど、何だか申し訳ない気もしてくるよ。」
「……どうして?」
「シュラは今頃、寒空の下で任務だからね。危険を伴うかもしれないし、怪我をするかもしれないし、何が起こるか分からない。もしかしたら、命の危機に陥っているかもしれない。私達の請け負う任務とは、そういうものだからね。」


なのに、自分はこうして幸せな空間の中で、心地良い時間を過ごしている。
闘いが本分の聖闘士が、こんなにのほほんとお茶の時間を満喫していて良いものか。
そんな事を悶々と考えてしまう。


「オマエ、考え過ぎだっての。たまたま今日はシュラだっただけで、明日は我が身じゃねぇか。」
「そうそう。シュラは今頃、寒さに震えているかもしれないけど、明日はホカホカ・ホクホクで甘いものを貪り食べているわ、きっと。だから、余計な気遣いは不要だよ。」
「飛鳥……。」


そうか、そうだな。
明日は我が身、確かにその通りだ。
任務地がシベリアかもしれない、南極かもしれない、どんな極寒の僻地かもしれないのだ。
そう、明日の朝、まだ慣れぬ足を湿った雪に取られて、見事にズッ転けるのは私かもしれない。
そう思うと可笑しくて、止まらなくて。
鬱々とした考えを吹き飛ばすようにケタケタと笑った後、私は手にしていたカップの中のココアを一気に飲み干した。
シュラには悪いが、今、この暖かな時間を、気が済むまで謳歌させてもらうとするかな。



雪空を眺めながら、ホットココアをいただきます



(あ〜……。コーヒー、うまぁ……。)
(キミは、もう少し危機感を持った方が良いんじゃないか、デスマスク。)
(あぁ? 休みの日はダラダラするに限ンだろ。日頃、死ンでもおかしくねぇ仕事させられてンだからよ。)
(そんな事を言っていると、ヘッドパーツの蟹足をバキバキ食べられちゃいますよ、デスさん。)
(アホか! ンなモン、食えるヤツがいるワケねぇだろ!)


‐end‐





その夜、寒さに凍えて帰ってきた山羊さまが、ダラダラと寛ぎ捲る蟹さまを目撃。
そんな姿にイラッとした挙げ句、ストレス発散とばかりに蟹マスクの蟹足をベキベキに折り捲りそうですw

2017.11.28



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