皆の視線が集まる中、俺は通路の真ん中に立っていた。
両側からの視線が突き刺さる。
皆、ただ俺だけを集中して見ている。


もう、時間の感覚が分からねぇ。
酷く長いようで、でも、まだホンの僅かしか経ってねぇンだろうな。
兎に角、早くこの視線の輪の中から抜け出したいってのが、今の俺の本心だ。


そして、暫く後。
俺が入った後、また閉ざされていた扉が、再びゆっくりと開いた。
「おおっ!」と、感嘆の声が上がる。
開いた扉の向こうにいたのは、真っ白なドレスを着て微笑む、俺の妻・アイリーンだった。


何つーか、ほら、馬子にも衣装ってのか?
さして美人でもねぇアイリーンだが、今日の晴れ姿は、世界中のどンな極上美人よりも綺麗だと、心からそう思う。
贔屓目でも何でもねぇ。
やべぇ、マジで惚れ直しそうだ……。


白いベールの向こう側でみせる、はにかんだ微笑。
手には見事な白薔薇のブーケ。
俺の胸元のと同じだな、きっとアフロディーテが用意してくれたンだろう。
零れんばかりの薔薇の花束が、アイリーンの美しさを惹き立てていた。


ゆっくりと歩き出し、真っ直ぐに俺の方へと向かってくるアイリーン。
その横には先程、何処かへ消えたアイオロスの姿があった。
あぁ、なる程、そういう事か。
その腕に手を掛け二人でコチラへと歩いてくるアイリーンの姿を見て、やっと思い当たった。
アイリーンの父親役ってことか。
アイラを置き去りに何処かへ行ってたのも、このリハーサルに来てたから。
そうならそうと、先に言えばイイもんを。
黙って出て行って、アイラを泣かせやがって。


「ママ、きれい……。」


皆の視線が俺からアイリーンへと移り、息を呑んで、その姿を見守っている、そンな静寂の中。
ポツリと呟いたアイラの声が、ヤケに大きく響いた。
チラッとそちらの方を見れば、アイラは未だ、シュラの腕の中に納まって、俺達の事を凝視していた。


「……デス、様。」
「アイリーン。」


ウェディングドレスってヤツは、成程、相当に歩き辛ぇンだろうな。
随分と時間を掛けて、アイリーンとアイオロスは、やっと俺のところまで辿り着いた。
俺と目が合った瞬間、それまでの微笑を崩し、急に泣きそうな顔をするアイリーン。
オイオイ、まだ泣くのは早ぇだろ?
てか、今日は晴れの日だぜ?
頼むから泣かないでくれよな?


「さぁ、デスマスク。交代だ。」
「あぁ、分かってる。ほら、アイリーン。」
「はい、デス様……。」


父親役のアイオロスの腕から手を離し、今度は俺の腕に、その華奢な腕を絡める。
そして、ゆっくりと二人で歩き出した。
この通路の突き当たり、目の前に微笑んで待つ、アテナの嬢ちゃんのトコへと向かって。


「さてと……。おい、アイリーン。」
「は、はい。何でしょうか、デス様?」
「永遠の愛の誓いとやら、トットとしちまうぞ。でもってコイツ等、全員が目を丸くするような熱烈濃厚キスでも見せ付けてやろうぜ。」
「え? あ……、は、はい!」


結婚四年目の今日、やっと迎えた結婚式。
俺達は宣言通り、アテナの嬢ちゃんを含む皆の度肝を抜くような長い長いキスで愛を誓い合った。


「でちちゃまとママのちゅー、ながーい! らぶらぶだっ!」


無邪気なアイラの声が、延々とキスを続ける俺達の耳にこだまして届いた。





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