くっそ、ココに来て、急に逃げたしたくなってきやがった。
いや、逃げ出すなンて、ンな格好悪ぃ事、この俺がする訳にはいかねぇが。
それにしたって、こンな改まったシチュエーション、俺に似合わなさ過ぎンだろ?
やっべ、ホントに逃げたいわ。
それがダメなら、せめて叫びてぇ。
コイツ等の手前、それは絶対に無理だろうがな。


だが、そんな俺の不安を見透かしてか、いや、そんな事、有り得ねぇな。
兎に角、それを吹っ飛ばしてくれたのは、天使のように無垢で無邪気な顔したアイラだった。


「でちちゃまー。ねぇ、きんちょーしてるの?」
「はぁ? なンで俺が緊張なンか……。」
「だって、てって。」
「ん? 手ぇだぁ?」
「うん。でちちゃま、てってがふるえてるの。ほら。」


シュラの腕に抱かれたまま、短い自分の腕を俺に向けて必死に伸ばすアイラ。
それを見て、無意識にその手を取った瞬間。
俺はハッとした。


……マジかよ、本当に震えてやがる。


子供ってのはアレだな。
何つーか、時々、凄ぇ鋭いよな。
俺自身も、まさか手が震える程だとは気が付かなかった。
情けねぇなぁ、ったくよぉ。
この俺が、何でこれしきの事ぐらいで震えてンだか。


そう思ったら、一気に全ての緊張が急速に解けた。
そンな気がした。
今までのは何だったのかってくらい、今は逆に笑い出したいくらいだ。
ハハッ、バカみてぇだぜ、全くよぉ……。


「あー、何でもねぇよ。心配すンなって。な、アイラ。」
「でちちゃま、だいじょーぶ?」
「大丈夫だ。ほら、皆、待ってる。オマエ等も早く行けよ。」
「……うん。」
「分かった。行こう、アフロディーテ。」
「あぁ、そうだね。」


小さく首を傾げて俺を見ているアイラの髪を、最後にもう一度、クシャッと撫でてから、俺は皆から離れた。
そんな俺を振り返りつつ、ヤツ等は神殿の中へと消えていく。
ただ一人、アイオロスを除いて。


「おい、オマエは行かねぇのか? てか、ソッチ行って、どうすンだよ?」
「俺は俺の役割があるんだ。ま、さっき抜け出したのも、そのためだしね。」
「ぁあ? 何だ、そりゃ?」
「ハハッ。その時が来れば分かるさ。」
「??」


ワケ分かんねぇな、コイツは相変わらず。
まぁ、どうでもイイ、そんな事は。
大事なのは、アイツなンかよりも、今、これからだ。
俺の目の前にある、大きな扉。
これが開けば、一世一代の晴れ舞台の始まり始まりってな。


大きく息を吸い込む。
そして、ゆっくりと吐き出す。
一度、目を瞑り、深く頷く。
心の中で「ヨシッ!」と大きな気合を入れると、再び顔を上げる。


そして、睨み付けるように見ていた扉が、静かで厳かな音を立て、ゆっくりと開いた。





- 6/10 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -