5.SWEET×2



真昼の巨蟹宮。
見慣れた自分の宮の、見慣れた部屋の天井。
煙草の匂いの染み付いた、いつものベッドの上。
だが、唯一、いつもと違う事――。


それは、今、俺の腕の中に、アイリーンがいる事。
エメラルドと見紛う光を透かして輝く緑の瞳は、閉じた瞼に隠された状態で。
今は、俺の胸に頭を預け、幸せそうに眠っている。
この素肌に直接、触れて感じる温かな体温は、想像以上の心地良さだ。
俺は眠るアイリーンの身体を抱き締めて離さず、このままずっと、こうしていたいとさえ思った。


窓から燦々と差し込むのは、まだ明るい昼日中の日差し。
平日の真っ昼間っから、こんな淫らな行為をして。
こンなトコ、見つかった日には、澄ました顔して偉そうにふんぞり返っている神官共に、散々なじられそうだな。
なンて不埒なヤツ等だ、とでも言われて。
だが、そんな事、知ったこっちゃねぇ。
兎に角、この上なく満足を覚えていた俺は、その意を籠めて深い息を吐いた。


いや、だが、まだまだ満足はしてねぇな。
もっと、もっとだ。
貪れるまで貪って、骨の髄まで欲しい、この女が。
一度手にしてしちまえば、それ以上を望む、それが欲深い人間の性ってもンだ。
誰が何と言おうと、もう止まれねぇ。
端から止まる気もねぇ。


そうだ。
いつもの自分の部屋、いつもの自分の香水と、フワリと漂う煙草の匂い。
それに混じって香る、俺以外の異質な匂い。
アイリーンから発散される、芳しい女の匂い。
そして、交わり合った男と女の淫靡な性の匂い。
部屋に充満する、それらの多様な匂いに嗅覚から刺激されれば、抑えようもない欲求が、また内側からせり上がってきやがる。
ジワリジワリと背骨を辿って、自らの中心部分へと。


俺は身体を抱き寄せていたのとは反対の手で、アイリーンの柔らかな金茶の前髪を掻き上げると、そっと狭い額にキスを落とした。
そのまま、まずはこめかみへ。
そこから伝って閉じた瞼、そして、スラリとした鼻、ふっくらした頬、シャープな顎と、順に顔中にキスの雨を降らせる。
それから、加減を知らない唇が耳へと滑り落ち、耳朶を甘噛みし、啄ばむようなキスをするに至って、それまで何をしてもずっと眠りこけてやがったアイリーンが、やっと意識を取り戻した。


「ん……。う、うぅん……。あ……。デス、マスク……、さま?」


まだ少し寝惚けたままのアイリーンが呼ぶ、俺の名前。
寝起き特有の甘さと気だるさを、たっぷりと含んだ囁き声。
それは最上級の誘い文句となって、俺の耳に届いた。


もう、我慢出来ねぇ。
アイリーンを腕に抱いたままグルリと身体を回転させ、もう一度、シーツの波の上へと組み敷くと、俺は本格的に、その愛らしい唇に深く濃くキスを仕掛けた。


「う、ふぅん……。」


何とも可愛らしい声を零してくれる。
この分じゃ、今日一日は、このベッドに釘付けだな。
そう思いながら、再び、彼女と二人で分かち合う至福の時間に流されていった。





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