「だったら、ミロ様とアイオリア様の事はどうなの? あのお二人は確実に貴女に好意を持っているわよ、誰が見ても明らかに。」
「それは、その……。」


黄金聖闘士が女官如きに好意を抱いたりしないと言うなら、このお二人の事は、どう説明するの?
そうシタリ顔で私を眺め、フフンと鼻を鳴らす彼女。
私は何も言い返せずに、声を詰まらすばかりだ。
ミロ様もアイオリア様も根は真面目で一途な方。
遊び半分で誘いの言葉を掛けてくるような性格ではない。


「お二人共、鮎香の事が本気で好きなのよ。鮎香だって良く分かっているでしょ。それを思えば、相手が黄金聖闘士だからとか、自分は女官だからとか、全く関係ないわ。シュラ様が貴女を好きになる事だって、十分に有り得る。それは空想や妄想の産物なんかじゃない。」
「そう言われても……。」


否定する要素は、まだある。
ミロ様やアイオリア様と、シュラ様とでは、根本的に趣味や好みが違っていると思うの。
シュラ様には私のような見た目の劣る東洋人より、もっと大人っぽくて、華やかな美人で、セクシーな色気のある女性が似合う。
私のような目立たない女の子では、とても釣り合わないだろう。


「問題はそこじゃないでしょ。どんなにゴージャス美人が似合いそうでも、本人の好みじゃないなら意味がないもの。シュラ様は間違いなく、鮎香のようなしっかり者で真面目で良く働いて、それでいて守って上げたくなるような可愛さを持ってる女性が好みよ。それはミロ様やアイオリア様も同じだろうけど。」
「でも――。」
「俺が何だって?」


――っ??!!


「み、ミロ様っ?! い、いつからそこに?!」
「いや、偶然、ここの廊下を通り掛かったら俺の名前が聞こえてさ。何? 何の話題? 凄く気になるんだけど。」
「そ、それは、その……。」


ミロ様、例えそこは気になっても、聞かなかった事にして通り過ぎてください。
話の内容を突っ込まれて聞かれたなら、私達(というか主に私)が困るんですから。
分別ある男性なら、その辺は察して欲しいもの。


「で、何? 鮎香が俺の事を話題にしてるなんて気になって仕方ないんだけど。ね、ほら、鮎香。黙ってないで教えて、早く教えてよ。」
「えっと、あの……。」
「だ、駄目ですよ、ミロ様!」
「……え?」


困り果てている私の様子など、まるで眼中にないミロ様は、いつもの調子で押して押して押し捲ってくる。
決して悪い人ではない、悪気がある訳じゃない、そうと分かっているから、ビシッと断れない私も悪いんだけど。
どうにか上手く逃れられないかと言葉を濁していたら、何とミロ様ファンの彼女が、私の代わりとばかりに、彼に強い言葉を投げ掛けたのだから、ミロ様のみならず、私までも目を丸くして驚いた。


「女同士の会話に割り込もうなんて、野暮ですよ、野暮。」
「え、野暮?! 俺が?!」
「そうです。男の人っていうのは、例え気になっても見ぬ振り、聞こえぬ振りをする。それが紳士ってものですわ。」
「そ、そうなのか? でもなぁ……。」
「でも、じゃありません。諦めの悪い人は嫌われますよ。いつまでも『少年らしい無邪気さ』だけでは通用しませんからね。分かりますでしょ?」
「そ、そうなのか?」


すっかり彼女のペースに飲まれて、言い含められてるわ、ミロ様。
私は心の中で、ミロ様を巧みに引き留めてくれた彼女に感謝しつつ、そっと、その場を後にする。
小走りに歩きながら振り返ると、彼女が私に向かって後ろ手にコッソリとピースをしていたのが見えた。





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